EVGA とはカリフォルニア州に拠点を置く PC関連パーツを設計・製造している企業です。 NVIDIA が PC向けの安価な GPUチップを売り出しはじめた1999年から創業を開始している歴史の長い企業です。
EVGA は北米を中心に商品展開しているので馴染みのない方も多いかもしれませんが、北米で販売されている NVIDIA のカードの約40%のマーケットシェアを誇るグラフィックス・アド・イン・ボード(AIB)ブランドトップの企業です。オーバークロックを前提に開発されたボードの出来は非常によく、日本にも個人輸入している熱心なファンも少数ながらいるようです。
グラフィックボードの他にもマザーボードや電源ユニット、マウスなどの様々なアクセサリの販売製造も行っています。商品の品質のみならず、顧客へのサポートが大変よいことでも知られています。
EVGA はグラボは NVIDIA 製チップのみ扱っており、 NVIDIA とは長年良い関係を構築してきました。そのEVGAが今月16日にレビュアーや記者を招き NVIDIA との22年間の関係を断ち、RTX 4000シリーズは発売しないことを発表しました。
以下抄訳です
EVGA は NVIDIA との関係悪化により提携を解消しました。グラボ事業を縮小し、今後どのような形であれグラボを作りません。 AMD や Intel とも契約しません。お客様は今後も EVGA の保証を受けることができますが、新たに RTX や他のカードを作りません。弊社は EVGA RTX 4090 FTW3 カードのサンプルをすでに作成しましたが製品化せず、グラボに関わる進行中のプロジェクトもすべて破棄しました。-これには KINGPIN カードも含まれます。
– アンドリュー・ハン、EVGA CEO
VIDEO CARDZ – EVGA ends relationship with NVIDIA
EVGAの説明
なぜ NVIDIA と関係を断つに至ったのか。 EVGA は発表の場に呼ばれたPCパーツのレビューで有名なYouTuber、 Gamers Nexus に対して「尊厳の問題」と説明したそうです。財政的な決定ではなく信念に基づくものであることを強調しました。
Gamers Nexus は EVGA の説明に要領を得なかったようで納得した様子ではありませんでした。実際 EVGA の説明は漠然としており行間を読めという感じのものです。
ただ呼ばれた他のレビュアーや記者の感想に興味深いものがあったので載せていこうと思います。
NVIDIAとの軋轢
ここからは EVGA の質疑応答と合わせ、推測を多分に含んだ内容になります。
ドライバを発表日まで配布しない
これは EVGA に限った話ではありませんが NVIDIA は AIB パートナーを信用しておらず、クーラーの性能試験用のテストドライバしか配布しません。発売日になってようやく本物のドライバが配布されるのでレビュアーのほうが先に配られていることもあるようです。
特に3090/3080シリーズでは発売当日からドライバに問題があり、多くの AIB パートナーは商品を回収しなければならない事態に陥りました。発売の何週間か前にドライバを AIBパートナーに配って協力してテスト、修正していれば回避できたことでした。
EVGAの3080 シリーズの発売が遅れたのもこれが原因と言われています。
発表日まで価格を秘匿
さらに NVIDIA は CEO の革ジャンおじさんがステージに上がるまで AIB パートナーにグラボの MSRP(小売希望価格)を教えません。なのでどれほどの個数が売れるのか、研究開発費にどれくらいの資金を投じて良いのか予想がしづらいのです。
年々 NVIDIA 製のチップは大量の電力を必要とするようになっているので、高負荷に耐えうるPCB(基盤)の開発費も高騰しています。
NVIDIA 製のチップはモノリシックなため、歩留まりが低く高額になりがちなので売れ残るとかなりの損失になるというのもあるでしよう。特に Lovelace のチップはとんでもなく高額になるという話ですから潮時なのは間違いと思います。
Founders エディションカードの存在
NVIDIA は GTX 1000シリーズからファウンダーズエディションカードを発売しました。チップだけでなく完成品のグラボを自前で作ってしまったわけです。
1000 シリーズまでは少数生産、高価格で販売していたのでよかったのですが、2000 シリーズから MSRP(小売希望価格)で販売しだしました。3000シリーズのファウンダーズエディションに至っては EVGA よりも400ドルほど安く売られている通販サイトもあり、これに合わせて値下げざる得ませんでした。
NVIDIA みたいな巨大企業は大量に部品を購入できますし、チップを買う手数料も取られません。圧倒的に有利な立場なわけです。
いくら EVGA が名の知れたブランドでも天下の NVIDIA 純正カードのほうが安く売られていたら消費者はそちらを購入するのは必然でしよう。
これによりカードを売るたびに赤字になるという悪循環に陥ったとEVGAは説明しています。
EVGAの誤算も要因?
しかし、 EVGA が実質グラボ事業から撤退するのは完全に NVIDIA だけが問題かと言うとそんなことはないと考えます。
EVGA は NVIDIA との関係悪化が原因であり、尊厳、信念の問題だと説明したそうですが商売人が信念だけで動くということはありえません。グラボ需要が激減した今この発表をしたのは間違いなく金の問題でしよう。
NVIDIA と EVGA がどのような話し合いを行ったのかはわかりませんが、EVGA も2022年も引き続きグラボ需要が拡大すると見込んで大量に Geforce チップを買い込んでしまったようです。
EVGA はまだ RTX 2000 や 3000 シリーズの在庫を約一年分抱えているといくつものリーカーが漏らしています。実際これからも 2000/3000 シリーズの販売は続けるしサポートもすると発表しています。その在庫が捌くだけで手一杯になってしまっているのでしよう。
従業員が250人ほどの非公開会社がどれほどの資金を保有しているのか定かではありませんが、資金繰りが悪くなった、あるいはマイニングブームで儲けた利益が吹っ飛んだということなのかもしれないと予想しています。
NVIDIA はものすごく横柄でビジネスパートナーとして難しい企業だという話は AIB パートナーからだけでなく、メディアからも漏れ伝わってきますが、YouTuberや記者を集めて具体的な理由を述べず、一方的に NVIDIA が悪いような印象操作を行うのは少々卑怯ではないかと思います。
まあ実際にこの印象操作は成功していて、今まで NVIDIA からぞんざいに扱われてきたメディアは大方 EVGA を擁護して NVIDIA を批判しています。
EVGAの今後
グラフィックカードのAIBのマージンは年々低くなっていますしとんでもなく立場が低いです。
NVIDIA という偏屈な企業と一旦手を切りたいということもあったのしようけれども前述したように EVGA の経営的な失敗、あるいは方針転換も原因の一つではないでしようか。おそらく来年は全くと言っていいほどグラボが売れなくなるので博打打ちはやめて一旦電源ユニットなどの安定した市場に専念したいということなのではないかと思っています。
Gamers Nexus は EVGA CEO のハン氏に何か個人的な事情も含んでいるのではないかと質問した際、家族ともう少し時間を取りたいということを漏らしています。
NVIDIA は Hardware Unboxed事件などを見るに裏切った相手は絶対に許さない企業なので他社と組んだら和解はありえないでしよう。(NVIDIA は2020年に RTX 2000シリーズのレイ・トレーシングはただのギミックだと酷評した YouTuber にサンプル GPU を送らない嫌がらせをしました。各所から非難轟々になった結果、これを撤回しましたがこれ以降コラボすることがなくなりました。)
具体的な批判を避けたこと、AMD や Intel とも提携しないということはもしかしたら将来的に後継者か資金が溜まったらグラボ市場への再参入を見据えているのではないかと思っています。
グラボ事業に関わっていた従業員の今後が気がかりではあります。社員の再配置を行うということですが、実質企業規模が小さくなるわけですからおそらくリストラは避けられないのではないかと思います。
終わり
Photo by 🇻🇪 Jose G. Ortega Castro 🇲🇽 on Unsplash
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