今年(2023年)7月にSNSサービスを提供していた Twitter はイーロン・マスクの手によって「X」に改名され、おおいに賛否両論を巻き起こしました。
実はマスク氏が社名に X と名付けたのは今回が初めてではなく、1998年に X.com というオンライン決済サービスを提供する企業も運営していました。何やらこの文字に並々ならぬこだわりがあるようです。
1. Paypal 誕生までの経緯
イーロン・マスクは1,200万ドルもの巨額な投資を行い X.com を創業しましたが、出来上がったサービスはお粗末なものでした。全米の銀行システムのどの口座からでも口座番号だけで送金できてしまうという致命的な問題も引き起こしました。
マスク氏率いる X.com は自分たちの手でサービスを改善する技術がなかったため、1年以上前から稼働していた同業者、「PayPal」を運営する「Confinity® (コンフィニティ)」という企業と合併することを決意。「合併しないと Yahoo にやられる」とコンフィニティ CEO のピーター・ティール氏を半ば脅すような形で説得しました。X.com はコンフィニティの技術が必要で、 X.com はコンフィニティよりも知名度があったため、お互いにメリットがあると思ったのでしょう。
また、ティール氏は長年マスク氏とビジネスでの付き合いがありました。
合併してまずマスク氏は新サービスの名称を「X 」に改名しようとしました。マスク氏いわく、「ニッチな決済サービスだけに留まりたいなら PayPal でも良いかもしれない。だが世界の金融システムを征服したいならば X の方が適した名だ」とのこと。
しかし、顧客からは X という名称はポルノサイトを連想させるとして大反対され、結局 PayPal に落ち着くことになりました。マスク氏の目論見は失敗に終わりました。
2. クーデター
イーロン・マスクは当時 PayPal の最大の株式保有者であったため、必然的に彼が最高経営責任者(CEO)として選ばれることになります。
ですが合併後も X.com だったシステムは毎週のようにシステムに障害が発生したため、大きな損失を出し続けていました。これはユーザが増えるごとに悪化し、システムの欠陥を突いた詐欺事件も多発しました。
さらにマスク氏は金遣いが荒く、詳細な決算報告を役員に提出しないことから従業員の中から徐々に不信感がふくらみ、マスク氏を CEO の座から追い出すことを企てるグループができてしまいます。
2000年2月、マスク氏が新婚旅行のためシドニーに行く機上で CEO の座を降ろされました。
のちの PayPal CEO ピーター・ティール氏とのちの PayPal 最高執行責任者リード・ホフマン氏は「イーロンがあと半年間 CEO にとどまっていれば倒産していたかもしれない」と漏らしています。
2001年には社名も X.com から PayPal に統一されました。
マスク氏が有給休暇をほとんど取らなくなり、部下にもそれを強要しているのはこのクーデターのトラウマがあったためだと言われています。マスク氏は「休暇が自身を殺す」というような発言をしており、逆らう不穏分子がいないか常に監視しているようです。
3. 追放後
イーロン・マスクは PayPal を追い出されてからも投資資金を引き上げることなくそのままにしました。このおかげで2002年に PayPal が eBay に買収されたとき、マスク氏は 1億8000万ドルもの設立金を得ました。この資金を元手にマスク氏は航空宇宙メーカー「SpaceX」を創設します。
マスク氏を PayPal の創業者、とする記事やご本人のインタビューを見かけますが彼がやったことは創設者と呼ぶにはあまりに少ないと言えます。
イーロン・マスクという人物
マスク氏は自分が少しでも投資したり関わった企業に自分の名を刻まずにはいられない性分のようです。彼はメンツが何よりも大切な人間なのではないでしようか。
テスラを創設したのも彼ではないのですが、こっちは乗っ取りが成功してしまいました。マスク氏はマーティン・エバーハード氏とマーク・ターペニング氏、テスラの創設者2人を追い出し、自身こそがテスラの創設者だと喧伝して回っています。
彼が創設して本当に成功している企業は SpaceX しかないと言えますが、この企業も NASA からの技術支援と米国政府からの多額の公的資金投入で成り立っている企業です。Falcon 1 を打ち上げるまで3億5,000万ドルもの資金が政府系団体から支援されていました。
なお、2008年から2023年までの間、10億ドル以上もの補助金を受け取っています。そして Starship の開発が計画よりも大巾に遅れており、 SpaceX を徐々に蝕んでいます。
最近は ChatGTP も自分の手柄であるかのように語っています。創業者と意見が合わず仲違いし、約束した投資資金の10分の1しか払わなかったにもかかわらず、です。
Twitter を X と改名したのは過去の不名誉な事実を上書きしたいという意図があるのではないでしょうか。
おわり
Photo by Marques Thomas on Unsplash
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