日本と世界でシェアの高いセキュリティソフトウェアをリストアップし、有名な研究機関2団体が公開しているデータをもとにどの製品が優れているか分析していきます。最後に個人的な見解なども交えつつまとめに入りたいと思います。セキュリティソフト選びの一助になれば幸いです。
各研究機関の調査の正確性や公平性を知りたい方は以下の記事もご覧ください。
※ 「Avast」と「AVG」、「K7」と「ZEROセキュリティ」、「Bitdefender」と「F-secure」「ZERO スーパーセキュリティ」は同じ検出エンジンを利用しているので同一とみなします。
AV-Comparatives
「AV-Comparatives」は2004年オーストリアに設立されたアンチウィルスソフト調査専門の独立系研究機関です。ISO 9001:2015 の認証を受けています。また EICAR の認定を受けた最初の ITセキュリティラボです。
それでは 2023年の AV-Comparatives のテスト結果を見ていきましょう。
防御力評価
AV-comparatives は本物の悪意のあるサイト/URL検体を収集し、実機を用いてアクセス、どれだけスクリプトやペイロードをブロックするか評価しています。2023年は 1032 検体をテスト。
製品名 | 2〜5月 防御率 | 6〜10月 防御率 | 平均 | |
---|---|---|---|---|
Avast / AVG | Free Antivirus | 99.8% | 100.0% | 99.9% |
Bitdefender | Internet Security | 100.0% | 99.6% | 99.8% |
ESET | Internet Security | 99.2% | 98.2% | 98.7% |
F-secure | Internet Security | 99.8% | 100.0% | 99.9% |
K7 | Total Security | 99.2% | 98.6% | 98.9% |
Kaspersky | Standard | 100.0% | 99.6% | 99.8% |
McAfee | Total Protection | 99.6% | 99.6% | 99.6% |
Microsoft | Defender | 99.8% | 98.8% | 99.3% |
Norton | Antivirus Plus | 99.6% | 99.9% | 99.8% |
Trend Micro | Internet Security | 100.0% | 100.0% | 100.0% |
平均 | 99.6% |
- Trend Micro が最も防御力が高い。
- ESET がもっともすり抜けが多く、合計 13件のブロックに失敗。
誤検知
誤検知が少ないことは重要です。誤検知が多いとセキュリティソフトはオオカミ少年と化してユーザーは検知結果を信用できなくなり、アプリをインストール時にセキュリティを切ってしまうこともあります。
製品名 | 2〜5月 誤検知スコア | 6〜10月 誤検知スコア | 平均 | |
---|---|---|---|---|
Avast / AVG | Free Antivirus | 6.5 | 1.5 | 4 |
Bitdefender | Internet Security | 2 | 3 | 2.5 |
ESET | Internet Security | 1 | 0 | 0.5 |
F-secure | Internet Security | 19 | 18 | 18.5 |
K7 | Total Security | 3 | 4.5 | 3.8 |
Kaspersky | Standard | 0 | 2 | 1.5 |
McAfee | Total Protection | 7 | 6 | 6.5 |
Microsoft | Defender | 2 | 3 | 2.5 |
Norton | Antivirus Plus | 12.5 | 16 | 14.3 |
Trend Micro | Internet Security | 39 | 35 | 37 |
平均 | 9.1 |
Real-World Protection Test February-May 2023 (www.av-comparatives.org)
Real-World Protection Test July-October 2023 (www.av-comparatives.org)
- ESET が誤検知が最も少ない
- Trend Micro が最も誤検知が多い
ESET は誤検出が最も少ないですが、防御力も平均よりも低いです。
Trend Micro、日本で言うところのウィルスバスターは突出して誤検知が多いようです。ただ防御力では100%を叩き出しているのでトレードオフといった感じでしょうか。ただこれだけ誤検知が多いと高評価とするのは難しいところ。
パフォーマンスへの影響
AV-Comparatives は年2回セキュリティソフトウェアがシステムのパフォーマンスにどの程度影響を与えるのかテストを行っています。テスト内容は圧縮ファイルの圧縮・展開、ファイルのコピー、アプリケーションのインストール、OfficeファイルやPDFドキュメントの展開、ファイルのダウンロード、ウェブサイト表示速度や「PC Mark」でのベンチマークです。
製品名 | 4月 インパクトスコア | 10月 インパクトスコア | 平均 | |
---|---|---|---|---|
Avast / AVG | Free Antivirus | 7.7 | 6.8 | 7.3 |
Bitdefender | Internet Security | 2.2 | 6.9 | 4.6 |
ESET | Internet Security | 3.6 | 1.4 | 2.5 |
F-secure | Internet Security | 17.8 | 11.6 | 14.7 |
K7 | Total Security | 1.7 | 2.4 | 2.1 |
Kaspersky | Standard | 2.5 | 2.5 | 2.5 |
McAfee | Total Protection | 7.3 | 11.5 | 9.4 |
Microsoft | Defender | 30.2 | 18.6 | 24.4 |
Norton | Antivirus Plus | 6.9 | 7.1 | 7 |
Trend Micro | Internet Security | 16.8 | 11.2 | 14 |
平均 | 8.8 |
Performance Test April 2023 (www.av-comparatives.org)
Performance Test October 2023 (www.av-comparatives.org)
- K7 Computing が最もパフォーマンス負荷が小さく
- Microsoft が最もパフォーマンス負荷が大きかった
ZEROセキュリティにエンジンを提供している K7 が最もパフォーマンスへの負荷が少ないセキュリティソフトウェアという結果でした。
最もシステムへの負荷が大きかったのは Microsoft Defender です。内訳を見てみると圧縮ファイルの展開時とアプリケーションのインストール時に負荷が大きくかかったようです。
ATPテスト
AV-comparatives は年末に一回 ATP テストの結果を発表します。去年は15個のテストシナリオが用意され7社がテストに参加しました。G Data は日本での販売を終了しているので除外します。
製品名 | ブロック率 (%) |
---|---|
Avast / AVG | 73.3 |
Avira | 53.3 |
Bitdefender | 93.3 |
ESET | 86.7 |
Kaspersky | 86.7 |
公式サイトでどういったテストを行ったのか公開しているので気になる方はチェックしてください。
Advanced Threat Protection (ATP) Test 2023 (www.av-comparatives.org)
受賞製品
- 「Product of the Year Award 2023(年間最優秀製品)」
- Kaspersky
- 「Outstanding Product Award 2023(優秀製品)」
- Bitdefender
- 「Top-Rated Products 2023(高評価製品)」
- Avast / AVG
- Avira
- ESET
- G Data
総評
防御力、誤検知の少なさ、パフォーマンスの3つの要素で好成績を残した McAfee は受賞しませんでした。これは使い勝手の悪さや機能の欠落が原因です。
また年間通して100%の検出率を出したが誤検知が多かった Trend Micro が受賞しなかったのも公平さを感じます。
Kaspersky が2023年度の最優秀製品に選ばれました。ただ、ATPテストまで含めると個人的には Bitdefender が最も優秀な成績を収めたと思います。
AV-TEST
2023年の AV-TEST結果を見ていきましょう。
AV-TEST はドイツに拠点をおいているセキュリティソフトウェア調査専門の独立組織です。隔月でテスト結果を発表しています。
防御力評価
- 100%の防御力は「Avast Free antivirus」「Bitdefender Internet Security」「McAfee Total Protection」「Norton 360」の4製品
- ESET 社は2ヶ月間しかテストに参加・掲載しておらず、検出率 / 防御力がもっとも低くかった
パフォーマンスへの影響
AV-TESTはパフォーマンス・インパクト・テストのテストメソッドの仔細を公表しておらず、信用に足るか疑問ではありますが、参考に載せておきます。
- 「ESET Premium」が一番パフォーマンス評価が低い
- 「Avast Free Antivirus」「Bitdefender Internet Security」「K7 Total Security」「Kaspersky Standard」が最高評価6.0
ESET の評価が1ヶ月間しか行われていないのは AV-TEST の掲載を断っているためだと言われています。
意外なことに AV-TEST のテスト・メソッドでは Microsoft Defender のパフォーマンス評価は悪くありませんでした。
Test Results (www.av-test.org)
ATPテスト
去年は7月と12月の二回発表されました。参加企業は「AhnLab」「Bitdefender 」「F-secure」「Kaspersky」「Malwarebytes」「McAfee」「Microsoft」「Norton」「PC Matic」「Microworld」の10社
ただ AV-TEST の用意したテストシナリオが甘いせいかコンシューマー向けのテストでは MicroWorld 以外のすべての製品が100%のブロック率を出しており、あまり参考になりませんでした。ちなみに MicroWorld eScan は日本向けに製品を販売していません。
ATP Test: Defending Against Data Stealers and Ransomware (www.av-test.org)
Advanced Threat Protection against the latest Data Stealers and Ransomware Techniques (www.av-test.org)
総括
今年も例年に漏れず両研究機関あわせて年間通して検出率100%を出せたアンチウィルスソフトはありませんでした。完璧なセキュリティソフトウェアなど存在しないことを裏付ける結果となりました。
まず驚いたのが K7 Computying の進化ぶりです。もう少し防御力/検出率が高くなれば同じエンジンを搭載している「ZERO ウイルスセキュリティ」もおすすめできる日がくるかもしれません。
しかし、ATPテストには参加していないので高度な脅威に対する防御力は未知数であり、現状 Microsoft Defender よりも高い防御が期待できるかと聞かれたら頷けません。
AV-Comparatives は「Kaspersky Standard」に年間最優秀製品賞授与しており、妥当な評価だと思いました。Kaspersky はただ防御力が高いだけでなく、誤検知も少なく強力なロールバック機能がついています。ですがロシアで開発が行われているため経済制裁により最も大きなマーケットであった米国で締め出されたことと、ATPテストのパフォーマンスが Bitdefender に負けていることを留意しておくべきでしょう。
本サイトおすすめの製品
総合的に見ておすすめだったのが Bitdefender です。 AV-comparatives の ATPテストで最も高い防御率を誇るだけなく、AV-TESTのテストでも防御率、パフォーマンスのいずれでも最高成績を残しています。
ルーマニア製なので現在ロシアと戦争中のウクライナと隣り合っていますが NATO加盟国なので今のところ直接国際的な争いに巻き込まれる可能性は低いでしょう。
また「ZERO スーパーセキュリティ」は Bitdenfender のエンジンを採用しているのでそちらを検討してみるのも良いかもしれません。「スーパー」の方です。一回買い切りが特徴です。
おわり
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