「ThinkPad X1 Nano」はモバイルノートPCの立役者で有名な ThinkPad シリーズの中でも 1 kg を切る最軽量モデルです。その第 3 世代機をメーカー様から貸し出していただいたのでレビューしていきます。
外観
大きさは13.3インチです。本機を手に取ってみると重そうな見た目に反して何も入っていない箱を持ち上げたような感覚。
しかし、触り心地がサラッとした高級感があり不思議な体験でした。
遠目からすぐに ThinkPad だとわかるマットブラックカラー。一見 ThinkPad X13 そっくりに見えますが出っ張りが無く、一回り小さいです。
天板はカーボンファイバーでつくられていますが「ThinkPad X1 Carbon」のような格子パターンがありません。
光を当てないとほとんど見えない控えめな企業ロゴ。
指紋センサーはタッチパッドの横に。電源ボタンに埋め込まれていてほしかったという意見を見かけますが、筐体側面にあると使いにくくなるのでこの配置が正解なのでしょう。
電源が入っているとき、パームレストの ThinkPad ロゴの ● が淡く光ります。
インテル製内蔵 GPU「iRIS Xe」搭載。
複数の Intel デバイスを遠隔管理できる vPro 搭載モデルもあります。
筐体にはアルミニウム合金よりも軽量なマグネシウム合金が使われています。
画像をご覧になればわかりますが油取り紙みたいに手の脂が吸いつきます。
四方に滑り止めがついていますが面積が小さく、さらに本体が非常に軽いので役割を果たさずにツルンと滑ってしまうことがあります。
貸与機なので分解はしていませんが、ThinkPadシリーズはキャプティブスクリュー(落下防止ネジ)が使われておりネジをなくす心配がありません。
ディスプレイ
13.3インチIPS液晶パネルの小型ディスプレイにもかかわらず解像度は 2K (2160 x 1350)と非常に精細。競合商品で多く見られる WUXGA (1920 x 1200)よりも約 26.5 %ピクセル数が多いです。
はじめ小型ディスプレイにこの高解像度はどうなのか、と思っていましたが実際使ってみると絶妙なバランスで作業がしやすいです。
180°ペタリと平らにできます。
ディスプレイの最大輝度は 450 nit とかなり明るく、iPadに迫まる明るさです。野外でも快適に作業することができます。色域も 100% sRGB でかなり色鮮やか。
パネルには OLED ではなく IPS パネルが採用されています。昨今の液晶技術の進歩は目覚ましく、パッと見ただけでは判断がつかないくらいキレイです。
視野角はご覧の通り非常に広いです。
バックライトで液晶を照らしているのでどうしても若干のムラがありますが、このパネルは IPS基準だとかなり少ないほうです。フリッカーリングも認められず安定しています。
ピクセルもにじみがなく、きれいに表示されています。
ポート
・正面と裏側
・左右側面
左側面ポートの接写画像。
ポートはオーディオ・コンボ・ジャック、ThunderBolt 3 対応 USB-C ポートが 2つ、一つは PD (充電)対応です。
右側面。電源ボタンにはインジケーターが内蔵されています。オプションとして LTE 4G (NanoSIM) 対応もできます。
常に持ち運ぶことを前提に設計されているのかケンジントンロック(盗難防止用のロック)すらありません。
他社の 13インチ型と比べてもかなりミニマリスティックなポート構成です。HDMIポートもないので会議室でプレゼンをする場合は変換ケーブルやその他ドングルを用意しなければなりません。
まあこういったハイエンドビジネスノートの購入層は会社でも役員だったりお偉いさんなので関係ないかもしれません。
スペック
プロセッサー | インテル® Core™ i7-1370P vPro® Enterprise プロセッサー インテル® Core™ i7-1360P プロセッサー インテル® Core™ i5-1350P vPro® Enterprise プロセッサー インテル® Core™ i5-1340P プロセッサー |
---|---|
メモリー | オンボード: 16GB 最大16GB |
ストレージ | 256GB/512GB/1TB SSD |
ビデオ・チップ | CPU内蔵(インテル® Iris® Xe グラフィックス) |
ディスプレイ | 13.0型 2K IPS液晶 (2160 x 1350)、省電力、光沢なし 13.0型 2K IPS液晶 (2160 x 1350)、マルチタッチ対応(10点)、省電力、光沢なし |
インターフェース | USB4 (Thunderbolt™ 4 対応) x 2マイクロホン/ヘッドホン・コンボ・ジャック |
ワイヤレスLAN | Wi-Fi 6E対応 (IEEE802.11ax/ac/a/b/g/n準拠) |
Bluetooth | v5.3 |
オプション | Nano SIM |
オーディオ機能 | Dolby Atmos, Dolby Voice, 4mic+4スピーカー(キーボード面にスピーカー) |
カメラ | インカメラ: 全てプライバシーシャッター付きFHD 1080p RGB+IR Webカメラ MIPI 人感検知機能付きFHD 1080p RGB+IR Hybrid Webカメラ |
本体寸法(幅×奥行き×高さ) | 約 293.2 x 208.0 x 14.4mm (ノンタッチモデル)約 293.3 x 208.1 x 14.8 mm (タッチモデル) |
本体質量 | 約 966.5g~ (ノンタッチモデル)約 991.5g~ (タッチモデル) |
バッテリー | 固定式 3セル リチウムイオンポリマーバッテリー 49.6Whr |
バッテリー駆動時間(JEITA2.0に基づく計測) | 最大 約19.7時間 |
「ThinkPad X1 Nano Gen 3」は2023年4月から発売されましたが、その間に発表された最新の Intel P プロセッサーもオプションに含まれています。2024年7月現在4種のプロセッサーから選ぶことができます。
DRAM メモリー容量の選択肢が 16GB しかないことと直接基盤にハンダ付けされているので増設できないのがネックです。まあモバイルPCカテゴリーの製品は他社も概ね基盤直付けされているのでアップグレーダビリティについては文句は言えませんが、32GBモデルは欲しかったという人はいるかもしれません。
ただ SSD とバッテリーは簡単に交換ができそうなので長く使えそうです。最近のモバイルノートは SSD さえもアップグレードできないことが多いのでこれはありがたいです。
処理性能
貸し出していただいた機体は Intel i5-1340P 搭載モデルです。 このプロセッサーは物理コアを 12 備えており 16スレッド まで同時処理できます。パフォーマンス・コア(4.60 GHz)を 4 、省エネ・コア(3.40 GHz)を 8 を内蔵されています。
内蔵グラフィックスは 1.45 GHz まで出力できます。
ベンチマークスコア
Cinebench R23
7-Zip ベンチマーク
価格が約半分の Ryzen 5500U に 7-Zip の処理速度で負けているのが残念な結果です。スペック上では圧勝するはずなのですが CineBench R23 でもマルチコア性能で負けています。
しかしながらオフィスユースでは過剰とも言える性能なのでどんな作業でも快適に行うことができるでしょう。さらに Intel P シリーズは U シリーズよりもベースパワーが高いにもかかわらず省エネ性能が高いです。コアの使い方がうまいのかもしれません。
ゲーミング
本機でゲームを遊ぼうという方は少ないと思いますがテストしてみました。
・ファイナル・ファンタジーXIV:暁月のフィナーレ ベンチマーク
・ストリートファイター6は起動中にエラーが発生しました。
多くのゲームで低〜中画質に設定を落とせばそこそこ遊べます。
キーボードとトラックパッド
キーボードは 88キーの標準的なJIS(日本語)配列で変なクセはありません。電源ボタンを配列に紛れ込ませるような愚かなことはしていません。
ThinkPad X1 のキーボードよりもほんの少し小さいらしいのですがほとんど違いがわからないくらい使い心地が良いです。文章編集などでよく使う方向キーやページボタンも大きめで押しやすい。
小さなボディにもかかわらずキーピッチは 18.5mm と大きめにとられており、タイプミスが起きづらいです。
他の薄型ノートは真っ平でおもちゃみたいなキーボードだったりしますが、本機は ThinkPad のやや内側に窪んだシリンドリカル型キーキャップが踏襲されています。指先に違和感なく馴染み、長時間タイプしていても疲労感が少ないです。
キーピッチが Yoga シリーズのようにやや浅めですが押し心地は悪くはありません。筐体のたわみもほとんどありませんでした。
タッチパッドはガラス製で大きさは 11.3 cm (4.4インチ)。真上にトラックポイント用のボタンがあるのでやや小さく感じます。
キーボードには調光可能な白LEDバックライトも備えられており暗所でも作業できます。印字はダブルショットではないのでゲーミングキーボードのように光は透過しません。
赤ポチ(トラックポイント)はキーボードのホームポジションから手を移動させずにカーソルを動かせるので使いこなせれば作業効率が飛躍的に向上します。
インカメラ
インカメラは単眼+IR(赤外線)のカメラユニットが採用されています。 Windows Hello 対応なので本機の前に座るだけでログインできます。
性能は フルHD 1080p f値2.0のやや暗めのカメラですが自然でキレイな絵が撮れます。
照明が光不足だったこともあり、少々暗い画像になってしまいましたが、撮影したぬいぐるみも忠実な色味に仕上がっています。
光を多めに当てるかホワイトバランスを調整してあげると良いでしょう。
携帯性
持ち運びのしやすさ
冒頭でも述べましたが「ThinkPad X1 Nano Gen 3」は見た目に反してかなり軽いです。
重さを測ってみたところ、本体重量 972 g 、ACアダプタ含む総重量は 1,245 g でした。公式では 0.9665 kg と記載されています。後述しますが、13インチの競合商品と比べて平均的な重量となっています。
駆動時間・バッテリ性能
公式のデータをまとめるとざっと下記のようになります。
- 標準モデルのバッテリ容量は 4165mAh / 48.35Wh
- 57.00 Wh 大容量バッテリーへの換装可能
- 1時間で80%充電可能(65W AC アダプタ使用)
MobileMark 25 | JEITA 2.0 | 動画連続再生時間 | |
---|---|---|---|
i5-1340P搭載モデル | 11.13時間 (輝度250 nit) | 19.67時間 (輝度150 nit) | 17.83時間 (輝度150 nit) |
i5-1350P搭載モデル | 10.58時間 (輝度250 nit) | 19.03時間 (輝度150 nit) | 17.44時間 (輝度150 nit) |
i7-1370P搭載モデル | 10.28時間 (輝度250 nit) | 18.92時間 (輝度150 nit) | 17.13時間 (輝度150 nit) |
150 nit で作業するのはあまり現実的ではないので MobileMark 25 の結果しかあてになりませんがオフィスユースだと概ね 11時間程度 の稼働時間です。
またオフィスでの作業環境を再現するベンチマーク、PCMARK 10 の「modern office モード」でテストしたところ 11時間20分でした。一般的な用途ならば10時間は固いのではないでしょうか。
動画を流しながら作業したりコンパイル作業などを行う私の使用環境だとおおよそ8時間ほどでした。
サウンドシステム
マイク
ショットガンマイクなどにみられる360度集音マイク「クワッドマイクアレイ」が搭載されています。Web通話などで話者の声を拾いやすくする効果があります。
スピーカー
スピーカーはヒンジ付近に2つ、筐体の裏側に2つあります。
下向きにスピーカーが配置されていたので若干不安でしたが、立体的でなかなか良い音を奏でてくれます。低音が物足りなく、サブベースはないに等しいですが中高音域がクリアなのでビデオ会議や通話と言った用途には十二分な性能です。さすがは Dolby Atmos方式を採用しているだけあります。
表面温度と騒音
冷却にはブロワー式のファンを1基を搭載しており、筐体右側面、電源ボタンの横から排熱されます。
吸気口は小さめなので膝上に置いて高負荷な作業する場合は塞いでしまわないよう少し注意が必要だと思います。ゴミ吸引防止のためファンがメッシュに覆われています。
放射温度計で CPU が内蔵されている左上の WASD キー付近を測定したところ、約 37.8℃ でした。底面部分で一番熱いところは 約 42.6℃ まで上昇するのを観測しました。低温やけどをしないギリギリの温度です。
ファンの騒音
ベンチマーク 時 | 36.7 dB |
動画視聴 時 | 25.6 dB |
アイドル 時 | 20.5 dB |
ファンの音はフル稼働だとそこそこ大きいものの、サーッという音で不快な高音は発しません。それ以外はかなり静かです。
他社製品との比較
他社の法人向け13インチビジネスノートと比較してみました。数字は各メーカーのカタログから引っ張ってきました。
「ThinkPad X1 Nano Gen 3」は現在(2024年8月) i7-1360P と i7-1350P 搭載型しか Lenovo 公式販売サイトで購入できないので上位モデルの 1360P を比較対象としました。
ThinkPad X1 Nano Gen 3 は高解像度 2K ディスプレイを搭載しているにもかかわらず、稼働時間はかなりがんばっています。Intel Pシリーズのパワーマネージメントが優秀なのかもしれません。
ThinkPad X1 Nano は大幅な値引きがされており価格はメーカー公式がダイレクト販売している中では一番安いです。
総評
Pros (長所)
- 軽量
- 丈夫
- キーボードが打ちやすい
- トラックポイント
- 2Kディスプレイ
- クアッドマイク
- 高音質なサウンドシステム
Cons(短所)
- 滑り止めが小さく滑りやすい
- 汚れが目立つ
- タッチパッドがやや小さい
- ポートが少ない
- 標準バッテリー容量がやや少ない
「ThinkPad X1 Nano Gen3」を使っていて良かったと思う特徴は打ちやすいキーボードとトラックパッド、それに高解像度のディスプレイです。
個人的にはモバイルノートPCを買う上でキーボードの使いやすさは最も重要な要素だと考えているので予算が許すなら ThinkPad シリーズ一択かなと考えています。またホームポジションから手を離さずにポインターを動かせるトラックポイントという独自の入力装置はキーボードセントリックな方にとって強力な武器になりえます。
さらに 2Kの高解像度ディスプレイは非常に見やすく作業効率が上がります。Windows PC はこの解像度を標準にすべきではないかと思うほどです。
その他の機能も高水準なレベルでまとまっており、市販されている Windows OS 搭載モバイルビジネスノートPC の中では間違いなくトップ3に入る品質を誇ります。
おわり
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