レノボ社の ThinkPad シリーズはその携帯性とパフォーマンスの高さで多くの企業で採用され、多くのユーザーからも愛されてきました。様々なラインアップが存在しますが X1 Carbon は特に高品質なため魅力的です。
一年前に前モデルの Gen 11 シリーズを試用し、とても満足する出来でした。最新モデルの Gen 12 ではどのように変わったのか見ていきたいと思います。
外観・デザイン
開けたところは前モデルとほぼ変わっていないようにみえます。


アルミニウム合金を使っている多くのノートPCとは違い、 X1 Carbon は天板にはリサイクルカーボンファイバーが使われており、筐体には90%リサイクルマグネシウム合金が使用されています。
ほとんどが再生素材で製造されているとは思えない上質な素材感です。


前モデルでは天板はカーボン調のデザインが施され汚れがつきにくかったですが、本モデルでは従来のマットフィニッシュに戻されました。やはりこちらのほうが質感が格段に良いですが油取り紙のように指紋が付いてしまいます。

レノボ社のロゴは光を照らさないとほぼ見えないくらい控えめに刻印されています。

右側パームレストには ThinkPad ロゴ。こちらも遠目では赤丸●以外ほとんど見えなくなる刻印です。

そして今世代で特徴的なのがこのバー。ここだけ金属調ブラッシュド加工なので結構目立ちます。フタを開けやすいようにするため、とのことですが賛否両論が別れるところだと思います。

正面・ヒンジ

厚みは 15 mm と薄く
左右側面

パフォーマンスとバッテリー性能
前モデルでは DRAM(メモリー)は最大 32 GB までしか選択できなかったのに対し、本機では最大 64 GB まで選択できるようになりました。ただ相変わらずはんだ付けされているのでアップグレードは不可です。
高パフォーマンスと超い持続性能を持っていることを示す「Intel EVO」に認定されています。

スペック
プロセッサー(CPU) | ・Intel Core Ultra 7 vPro Enterprise 165U ・Intel Core Ultra 7 155U ・Intel Core Ultra 5 vPro Enterprise 135U ・Intel Core Ultra 5 125U ・Intel Core Ultra 7 プロセッサー 155H ・Intel Core Ultra 5 125H |
メモリー(DRAM) | オンボード: 16GB/32GB/64GB |
ストレージ容量 | 256GB/512GB/1TB/2TB SSD |
グラフィックス | ・CPU内蔵(インテル® Arc™グラフィックス) ・CPU内蔵(インテル®グラフィックス) |
ディスプレイ | ・14.0型 2.8K OLED (2880 x 1800)、マルチタッチ対応(10点)、ブルーライト軽減 ・14.0型 2.8K OLED (2880 x 1800)、ブルーライト軽減 ・14.0型 WUXGA IPS液晶(1920 x 1200)、Privacy Guard、光沢なし ・14.0型 WUXGA IPS液晶(1920 x 1200)、マルチタッチ対応(10点)、省電力、ブルーライト軽減、光沢なし ・14.0型 WUXGA IPS液晶(1920 x 1200)、省電力、光沢なし |
インターフェイス | USB4 (Thunderbolt™ 4 対応) x 2 USB 3.2 Gen 1 (Powered USB) x 1 USB 3.2 Gen 1 x 1 HDMI マイクロホン/ヘッドホン・コンボ・ジャック |
カメラ | ・8MP+IR カメラ MIPI 人感検知機能付き ・FHD 1080p RGB+IR カメラ |
バッテリー | 固定式 3セル リチウムイオンポリマーバッテリー 57Whr |
バッテリー駆動時間(JEITA3.0に基づく計測)*** | 最大 JEITA測定法 3.0: 動画再生時 約12.8時間・アイドル時 約35.4時間 |
レビュー機の性能
CPU 仕様
製品名 | Intel Core Ultra 5 125U |
コード名 | Meteor Lake |
コア数 | 12 |
P(パフォーマンス)コア数 | 2 |
E(高効率)コア数 | 8 |
LP E(低電力効率)コア数 | 2 |
スレッド数 | 14 |
Pコア最大周波数 | 4.3 GHz |
Eコア最大周波数 | 3.6 GHz |
キャッシュ | 12 MB |
基本消費電力 | 15 W |
最大消費電力 | 57 W |
GPU 仕様
製品名 | Intel 内蔵 Graphics |
最大周波数 | 1.85 GHz |
X-core | 4 |
DirectX | 12.2 |
OpenGL | 4.6 |
DRAM
- 16 GB DDR5 SDRAM
ベンチマーク
各ベンチマークツールを使ってそれぞれ3回試走し、一番良い結果を載せています。ベンチマークを行う前に再起動を行っており、ログイン後に約3分間クールタイムを設けました。
■ 7-Zip
7-Zip 付属のベンチマークツールでデータの圧縮展開速度を測定しました。

CPU使用率が高いにもかかわらず圧縮速度がかなり遅いのが気になりました。
■ GeekBench 6
- OpenCL スコア 16441 (Radeon RX 560X とほぼ同スコア)
- シングルコア スコア 2122 (AMD Ryzen 7 5800X3D とほぼ同等のスコア)
- マルチコア スコア 8616 (AMD Ryzen 5 5600 と同等のスコア)
■ CineBench R23

ベンチマークツール、またタスクによってはかなり結果にバラツキがありました。
ゲーム
■ ドラゴンクエストX ベンチマークソフト Ver.1.7.0
- 画質品質:標準品質
- 評価:すごく快適
- スコア:12141
- 画質設定:最高品質
- 評価:すごく快適
- スコア:13491
■ ファイナルファンタジーXIV 黄金のレガシー ベンチマーク Ver. 1.1

前モデルと比べドラクエ、ファイナルファンタジー共に最低フレームレート、平均フレームレートが 10 FPS 以上向上しています。内蔵GPUの性能が大きく進化していることを体験できました。
まだ3Dゴリゴリの最新ゲームを高画質で遊ぶのは厳しいですが、画質を落とせばそこそこ遊べます。
バッテリー性能
レビュー機には標準搭載の 57 Wh 大容量バッテリーではなく、 47 Wh 容量のバッテリーしか搭載されていませんでした。筆者の使用環境ではフル充電から約 9 時間稼働しました。モバイルノートとしてはやや短く、もっとヘビーな使い方をしたら更に稼働時間は短くなるでしょう。よく持ち運ぶ場合は 57 Wh バッテリー搭載型を選んだ方が良いです。
以下の数値は各メーカーが提供している公開スペックを下に比較したデータシートです。
■ JEITA
去年から導入されだした「JEITA 測定法 3.0」だと本機の連続稼働時間は動画再生時 約12.8 時間・アイドル時 約 35.4 時間です。画面の明るさは 150 nit に固定されています。
ビデオ再生時間とアイドル時間を測定し、半分位割る測定方法の「JEITA 2.0」だと 約24.1時間となります。 前モデルよりも約 4 時間ほど稼働時間が短くなってしまっています。
CPU | バッテリー容量 | JEITA 動画再生時間 | JEITA アイドル時間 | |
---|---|---|---|---|
ThinkPad X1 Carbon Gen 12 | Ultra 5 125U | 57 Wh | 12.8 | 35.4 |
Panasonic Let’s Note CF-FV5TFAAS | Ultra 5 135U | 47 Wh | 9.0 | 18.1 |
HP EliteBook 630 G11/CT | Ultra 5 125U | 48 Wh | 9.1 | 21.8 |
■ MobileMark 25
「MobileMark 25」は、画像編集、文書作成、ウェブブラウジング、OCRといった日常的な作業をシミュレートした、より実践的なベンチマークツールです。
前モデルと比べて 13.95 時間 から 16 時間に稼働時間が増加しています。
CPU | バッテリー容量 | MobileMark 25 | |
---|---|---|---|
ThinkPad X1 Carbon Gen 12 | Ultra 5 125U | 57 Wh | 16時間 |
Panasonic Let’s Note CF-FV5TFAAS | Ultra 5 135U | 47 Wh | N / A |
HP EliteBook 630 G11/CT | Ultra 5 125U | 48 Wh | 13時間10分 |
このように Meteor Lake シリーズはベンチマークツールによって得意不得手があるようです。
選択肢が多い高解像度ディスプレイ
ThinkPad X1 Carbon Gen 12 は実に5種類ものパネルから選択が可能で、あらゆるニーズに対応できます。
本機は 14.0型 WUXGA IPS液晶(1920 x 1200)、光沢なしディスプレイです。輝度 400 nit とかなり明るいディスプレイなので屋外でも問題なく見ることができます。オプションの中で一番明るいものはノングレアIPSパネルで 500 nit まで出力することができます。
さらに DCI-P3 規格カバー率 100% の 2.8K (2880 x 1800) OLED(有機EL) パネルが選択可能です。

狭額縁化により89.2%の画面占有率を実現しています。ディスプレイの横縦比は昨今多くの14インチ型で採用されている16:10です。

視野角はノングレの割に結構広いです。

しかし、やはりというべきか彩色に欠けるため、プライベートやクリエイティブな用途ならば OLED をおすすめいたします。
フリッカー現象はなく、IPS にもかかわらずムラも少なく、高品質なパネルが採用されています。

軽量ボディと堅牢性を両立
本体重量は 1.24 kg です。 MacBook Air 13インチ (M3) とほぼ同じ重さでかなり軽い部類に入ります。前モデルから 100 g 近く軽量化が図られました。
ThinkPad X1 Carbon は、信頼性と耐久性を証明するために米国国防総省の「MIL-STD 810H」規格に基づく12項目のテストをクリアしています。MIL-STD 規格には28項目のテストがありますが、民生用ノートPCがすべてのテストを通過する必要はありません。たとえば、ビジネス向けのノートPCに防弾性能は求められません。
しかしながら、MIL-STD のお墨付きを得るためわずか数項目だけテストして MIL-STD 規格準拠だと主張するメーカーは少なくありません。その点、12項目ものテストを通過した ThinkPad X1 Carbon は、非常に高い堅牢性を誇っています。
AC アダプター

使いやすいキーボード・トラックパッド
ThinkPad 伝統のキーボードはモバイルノートの割にやや深めですがスムーズなキーストロークで打鍵感は非常に良いです。キートップがやや内くぼんだシリンドリカル型なので長時間タイピングしていても疲れません。

キートップ間の幅(キーピッチ)は約 19mm でフルサイズキーボードと同等です。

ボリュームキーや Enter、Fnなどに新たにポジションバーが設置され、よりタイピングが楽になりました。
Ctrl と Fn の配置見直され、ようやく業界スタンダードの配置になりました。

ThinkPad のアイコンでもあるトラックポイントは手をキーボードから移動させずにカーソルを動かせる大変便利な機能です。ただ、引き換えにタッチパッドの大きさが犠牲になってしまっていることには注意した方が良いでしょう。さらにタッチパッドの反応がやや鈍いように感じました。

キーボード下には LED を装備しています。二色整形のキートップなので摩耗で文字が消えることはなく、光を通します。

ハードウェアエンコード機能を備えた高画素カメラ
上部の出っ張りはコミュニケーション・バーと呼び、マイクとカメラユニットが集約されています。ハードウェアエンコード機能がある 4K 800万画素の MIPI カメラが選択可能です。
カメラカバー

標準装備のカメラは FHD 1080p カメラはそこそこ満足のいく画質で白飛びなどがなく、きれいな絵が撮れます。

360度集音可能なマイクと内臓スピーカー
360度集音可能なマイクを2基搭載、 Gen 11 では 4つのマイクを装備していましたが、2つ減った形になります。Gen 9 から組み込まれた「Dolby Voice」と「Dolby Atmos」技術を継承しており、周囲に雑音があるような通話に適した環境でなくともノイズを抑制した明瞭な音声を送ることができます。
スピーカーは驚くことにキーボード下に収納されており、デザインの洗練化に寄与していますが、タイピングしながらだとやや籠もった音になるのが玉に瑕。高音から中音域まできれいに出ますが、低温がやや弱く、サブベースなどは期待しないほうが良いでしょう。このタイプのスピーカーとしては音質が高いと言えます。
優れた冷却構造
本機で改良された点はなんといってもヒートシンクとクーラーのレイアウトです。前モデルまではヒートシンクの片側しか冷やしていませんでしたが、本機ではゲーミングノートのように CPU ヒートシンクの両側にファンが配置されました。排熱効率が格段に良くなったと言えるでしょう。
更に対ショック用のアブソーバーなどを装備、全面的に内部構造が再設計されています。

必要十分なインターフェイス
本機は必要十分なインターフェイスを備えています。アクセスポートが少なくて困るということはまずないと思います。
アップルや DELL などモバイルノートを USB Type-C に限定する迷惑な流れを作ろうとしています。そんな中、USB Type-A とフルサイズの HDMI ポートを装備していることが非常に高評価です。
左ポート

- USB4 (Thunderbolt™ 4 対応) x 2
- USB 3.2 Gen 1 (Powered USB) x 1
左側面はPD対応のUSB と Thunderbolt 4 対応の USB 4 が装備されています。
右側ポート

- USB 3.2 Gen 1 x 1
- HDMI
- マイクロホン / ヘッドホン・コンボ・ジャック
右側面にはアクセサリー関連のポートが集中しています。ポートの選定は素晴らしいですが USB-C ポートが右側にも一つあったらもっと便利でした。
電源ボタンがキーボードの上から ThinkPad X1 Nano と同様、筐体の側面に移されました。誤操作を防げ、ボタンの質感も向上しました。
不満点
・CPUパフォーマンスの不安定性
これは本モデルの問題というよりも Intel 製の CPU の問題だと思いますが動作がやや不安定だと感じました。ベンチマーク結果をご覧になればわかると思いますが、ツールによって結果に大きなムラがあります。JEITA と MobileMark で前モデルと結果が逆転しているのも CPU の影響かと思います。
ただ、一般的な用途ならばまず性能不足を感じることはないはずです。
・新たに追加された天板のパーツ

個人的にはこの出っ張りがどうも気になって仕方がありませんでした。パソコンケースなどから取り出す際、指を引っ掛けて取り出してしまっても良いのかどうか毎回悩みました。あまり強度があるように見えず、破損してしまうなら真っ先にここだなという確信があります。カメラユニットの出っ張りは気になりませんし開閉のしやすさに寄与していますが、このカバーパーツの必要性がわかりませんし、美観と携帯性を損ねてしまっていると思います。多くの人にとっては気にならないかもしれませんが、筆者は貸出期間中最後までここがあまり慣れませんでした。
最終評価
「Lenovo ThinkPad X1 Carbon Gen 12」は 価格がやや高く、いくつか欠点がありますが、軽量かつセキュリティ機能が満載、高スペックでありライバル機に遅れを取ることはないでしょう。前モデルからキーボードや内部構造に大幅な改良が加えられ着実に進化を続けています。
また本機のキーボードは大変打ちやすく、使っていて心地が良いです。一度使い始めたら戻れなくなるでしょう。
インテル製 CPU Metor Lake シリーズ搭載ノートPCの中では最高峰の品です。
おわり
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