概要
仮想マシン(ハイパバイザー)は一つの物理マシンに複数のオペレーティング・システム環境を構築できる素晴らしいツールです。そんなハイパーバイザーは2つのタイプに分けられます。
強力ですが物理マシンに直接インストールしなければならない「Proxmox」や「VMware ESXi」などのタイプ1型ハイパーバイザーと既存のOSの上にツールとしてインストールしてお手軽に使える「Oracle VM VirtualBox」「VMware Workstation」「Virt Manager」といったタイプ2型ハイパーバイザーです。本稿では Windows 上で動作するタイプ2ハイパーバイザーを取り上げます。
去年まで様々な機能を提供する「VirtuaBox」が多くのシナリオでおすすめできましたが、今年2024年、Broadcom社 が VMware を買収、製品ラインナップ刷新に際して「VMware Workstation Pro」を商用利用も含め無償提供を開始したことにより状況が変わりました。
ディスクの暗号化やスナップショット機能など、今までの「VMware Player」では使えなかった多くの機能が使えるようになったため、「VirtualBox」の多くのアドバンテージが失われました。果たして VirtualBox はまだ VMware に比べて優れている機能はあるのでしょうか。
機能比較
主な機能の比較を行った表です。
Oracle VM VirtualBox 7.0.6 | VMware Workstation Pro 17 | |
---|---|---|
ライセンス | ほぼオープンソース(GPL v3) | プロプラエタリ |
商用利用 | 〇(拡張機能は商用利用不可) | 〇 |
ハイパーバイザータイプ | 2 | 2 |
レンダリング | ハードウェア + ソフトウェア | ハードウェア |
ホストOS | FreeBSD, Linux, Windows, Solaris, macOS | Linux, Windows, macOS (Fusion) |
ゲストOS | FreeBSD, Linux, Windows, Solaris, macOS | FreeBSD, Linux, Windows, Solaris |
3D | DirectX 9, OpenGL 3.0 | DirectX 11, OpenGL 4.3 |
VM ビデオメモリ | 〜 128 / 256 (3D) MB | 〜 8 GB |
USBサポート | USB 3.0 (要拡張機能) パススルー | USB 3.1 パススルー |
クリップボード共有 | ○ | ○ |
ドラッグ&ドロップ | ○ | ○ |
フォルダ共有 | ○ | ○ |
ファイルシステム | ホストOS依存 | ホストOS依存 |
共有プロトコル | iSCSI, NFS, SMB (CIFS) | ホストOS依存 |
仮想ディスクサポート | VDI, VMDK, VHD, HDD | VMDX |
VMスナップショット | ○ | ○ |
VMストレージ暗号化 | ○ (要拡張パック) | ○ |
メモリバルーニング | ○ | ○ |
ここからは各機能の違いを比較していきます。同じ機能がある場合は省略し、目立つ大きな違いだけをピックアップしました。
ユーザーインターフェース
- Oracle VM VirtualBox
すっきりとした使いやすいユーザーインターフェースです。ただ、 Linux においては設定画面がややカクつきます。
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- VMware Workstation Pro
VirtualBox と比べ、若干ごちゃっとした印象があり、Windows 黎明期のソフトウェアを彷彿とさせますが、複雑な配置ではないのですぐに慣れると思います。
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ライセンス
- Oracle VirtualBox VM
- オープンソース版(OSE)がリリースされているため誰でも自由に使うことができます。
- 追加機能を提供するエクステンションパッケージは無償で使えるのは個人利用と教育目的に限られます。商用利用するには1ソケット10数万円もする「Oracle VM VirtualBox Enterprise」ライセンスを購入しなければなりません。
- VMware Workstation Pro
- プロプラエタリソフトウェアなためライセンシングが複雑。
- 利用は個人利用・商用利用含め無償。
VMware WS Pro は優れた製品ですが、クローズドソフトウェアなため、Broadcom社のご機嫌次第で今後の運命が左右されます。
一方、VirtualBox は Oracle が権利を所有しているとはいえ、大部分をオープンソース化しているため、今後もコミュニティによって開発が継続されていくことが期待できます。
レンダリング
VirtualBox はハードウェアレンダリングだけでなく、ソフトウェアレンダリングもサポートしています。このためプラットフォームやアーキテクチャが違っても完全なエミュレートが行えます。
VMware はハードウェアレンダリングのみに対応しています。これは Intel VT-x か AMD-V をサポートしている CPU を搭載したシステム上でしか動作しないことを意味します。ほとんどのマザーボードは初期設定では無効化されているので有効にする必要があります。もっとも両テクノロジーを搭載していない CPU は SandyBridge や Bulldozer 以前の太古のプロセッサーなのであまり心配はないと思います。
サポートされているオペレーティングシステム
VirtualBox はオープンソースソフトウェアなので様々なオペレーティングシステムに対応しています。FreeBSD と言ったフリーソフトウェアを理念としている OS にも対応しています。
VMware も Linux, Windows に対応しているものの、FreeBSD などのフリーソフトウェアをフィロソフィーとしている OS にはホストマシンでの動作が対応していません。また macOS ホストマシンで動作させたい場合は「VMware Fusion」をインストールする必要があります。
仮想ディスクのサポート
VirtualBox は多くの仮想ディスクフォーマットに対応しています。
- OVF (Open Virtualization Format) – 業界標準規格
- VDI (Virtual Disk Image) – Oracle VirtualBox 独自規格
- VMDK (Virtual Machine DisK) – VMware 社独自規格
- VHD (Virtual Hard Disk) – Microsoft Hyper-V 独自規格
- HDD – Parallels Desktop 独自規格
VMware Workstation は OVF と VMDK の2つのフォーマットしかサポートしません。
仮想ネットワークの構築
- Oracle VM VirtualBox
VirtualBox のネットワーク設定はシンプルで設定しやすいですが、サブネットの構築ができず、複雑なネットワーク環境のテストができません。
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- VMware Workstation Pro
VMware の仮想ネットワーク編集ツールはサブネットの構築ができ、様々なネットワーク環境の擬似テストが行えます。
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パフォーマンス
CPUとストレージ性能
ほとんどのベンチマークツールが VirtualBox 上では起動できないか試走途中でエラーとなってしまいました。7-Zip ベンチマークのみ完走できました。CPUコアを同数、メモリ容量も同じ容量に設定、3回実行した中で一番良い結果を比較しました。
CPU 使用率 | 圧縮速度 | 展開速度 | 時間 | |
---|---|---|---|---|
Oracle VirtualBox 7.0 | 385 % | 23.916 GIPS | 26.315 GIPS | 57.937 s |
VMware Workstation Pro 17 | 385 % | 25.189 GIPS | 27.827 GIPS | 54.985 s |
VMware WS が 3秒近くベンチマークを早く終えました。
3D グラフィックス
VirtualBox はビデオメモリーは 128 MB しか使えず、 3Dアクセラレーションを有効にしても 258 MB までが限界です。また OpenGL 3.0 と DirectX 9 までしかサポートしていません。
VMware は最大 8 GB までビデオ共有メモリを占有でき、 OpenGL 3.3 と DirectX 10 までサポートしています。
FF XIV や GeekBench などのグラフィックスをベンチマークするツールを試したところ、 VirtualBox 上で尽くエラーを吐き出して結果を得られませんでした。
疑いようがなく、 VMware WS の圧勝でしょう。
デベロッパー向けツール
「VirtualBox」「VMware」の両社とも開発者が仮想マシンをいじるための SDK(ソフトウェア開発キット) や API キットを用意しています。
ただし「VMware Workstation」「VirtualBox」に比べ Eclipse 向けのプラグインや VMware Studio といったより高度なツールを提供しています。
総括
- Oracle VirtualBox VM
- ユーザーインターフェイスがわかりやすい
- 多くの仮想ディスク形式をサポートしている
- オープンソースソフトウェア
- VMware Workstation Pro
- グラフィックス・パフォーマンスが格段に良い
- 高度なネットワークシステムのエミュレートが行える
- 開発者向けツールが豊富
上記のように両製品ともにそれぞれ特徴があり、VMware WS Pro に対して VirtualBox は完全に優位性がないというわけではありません。
おわり
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