東映アニメーションが海外YouTuberのレビュー動画150本削除、海外ファンたちが東映に猛抗議の謎

時事
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本記事は12月7日に起きた「Totally Not Mark」というチャンネルのアニメレビュー動画大量削除についてその経緯と背景、個人的見解を載せている。

東映アニメーション

東映アニメーションは少しアニメを見たことがある人ならば誰もが知っているアニメスタジオだ。1950年から存在するアニメ界の巨人で有名所ではワンピースやドラゴンボール、セーラームーン、プリキュアなどのアニメ映像化を手掛け、その権利を握っている。

東映は自社コンテンツをものすごく大事にする。大事にするあまり二次創作を徹底的に排除する。同人即売会の会場に東映社員が乗り込んでエッチな自社コンテンツの二次創作を販売しているブースに名刺を渡して脅嚇して回ったことは有名な噂話だ。

そんな東映アニメーションはYouTubeでも活発に警邏しており、自社コンテンツが少しでも含まれていると見るや削除申請をしているようだ。

はじまり

今回、東映の標的となった動画投稿者は「Totally Not Mark」というチャンネルを運営しているアニメレビューなどを行っている人物。ドラゴンボールやワンピースの大ファンで数々の考察動画を投稿してきた。数年前にチャンネルが軌道にのったことから動画制作・投稿を専業として生計を立てており、動画を編集するスタッフも抱えている。現在60万人以上の登録者数を誇り、アニメ系YouTuberの中ではかなりのインフルエンサーと言える。便宜上マーク氏と呼ぶ。

12月7日の早朝、急にYouTubeからマーク氏に著作権違反のEメールが数分おきに届き、数時間で合わせて150本もの動画が削除されたとのこと。3年間かけて作り上げた述べ50時間分のコンテンツだ。これが事実なら東映側が明らかに動画を視聴しておらずタイトルだけをみて削除申請をしたことになる。

しかも削除された中の9本の動画は本編映像を使っておらず、いわゆるお絵描きをする動画であった。

さらに今年の年初、東映はマーク氏に全米で行われる予定のコンサートのプロモーション活動について相談を持ちかけていたようだ。いきなり動画を削除申請するというのは共に仕事をしている人間に対し結構な仕打ちではなかろうか。

YouTubeに異議申し立てをしてから返答に30日かかり、権利者が認めればYouTube公式も交えて更に30日間の審査期間が設けられる。このため削除されたすべての動画に対応するためには膨大な時間がかかる。このようにクリエイターを守る仕組みがない上、YouTubeの著作権違反判定システムである「Content ID」の精度の低さも問題を大きくしてしまっている。実際、YouTube自身も6ヶ月間に何100万もの間違った著作権侵害の申立があることを明らかにしている。

12日にマーク氏は追加動画を出し、ここ数日間眠れず、食事もままならず、心が折れてしまったので今年は動画制作ができなくなってしまったことを明かした。

チャンネル登録者数 1.1億人を誇る「PewDiePie 氏」や登録者数956万人の「penguinz0 氏」、登録者数630万人の「Philip DeFranco 氏」などがこの事件に触れたこともあり、TwitterやYouTubeでは「#StopToei」のタグが作られ、アニメという枠を超えて様々なジャンルのYouTuberがマーク氏を支援する動きが広まっている。

Totally Not Mark
What's up, everyone! My name is Mark Fitzpatrick and I'm a professional "Anime Liker". English class was always a drag for me and so in order to not fail, I...

ここまで読んだ方は、まあ東映のやったことはあまり褒められたことじゃないけれど動画投稿は著作権違反したのだから削除されて当然だと考える人も多いだろう。なぜ海外のファンが激怒して東映のツイッターアカウントに突撃しているのか理解できないと思う。「あまりにモラルに欠けた行動ではないのか」と海外のファンを野蛮人扱いする日本人や「日本のアニメ制作会社の分際で生意気だと思われているのではないか」という卑屈な見方をしてる日本人も多い。

だが問題はもっと大きなところにある。日米の著作権に対する姿勢、法制度の違いだ。

日本と米国の著作物保護の齟齬

「フェアユース」というものをご存知だろうか。フェアユース(米国著作権法107条)とは米国で導入されている著作権侵害の主張に対する抗弁事由である。日本の著作権法のように個別具体的な例外規定で判断するのではなく、様々な事情を考慮して総合的に判断する例外規定だ。著作物に対しどのような影響を及ぼすのか、使用された量、使用目的や性質を審議する。そして変容的であるほどフェアユースであると認められる可能性が高くなる。裁判官によって振れ幅が大きい規定のため今でも疑義があるが、年々洗練されてきている。

Googleはフェアユースをこのように表現している。

フェアユースとは、一定の条件を満たしていれば、著作権者から許可を得なくても、著作物を再利用できることを示した法原理です。

フェアユースが必ず認められるような魔法の合言葉はありません。第三者が著作権を所有する作品を使用する際に、フェアユースとして保護される保証はありません。

https://support.google.com/youtube/answer/6396261?

この通りフェアユースはまだ曖昧で法整備の余地がたくさんあるが、本編を丸々アップロードしたり、ただの切り抜きや原作を主張したり悪質な使い方でもない限り権利者が裁判を起こしても主張が認められない可能性がある。このため訴えても金の無駄になることもあり権利者が権利を乱用しないよう一定の役割を果たしている。

一方、日本では日本版フェアユースの実現に向けて法改正は過去に2回ほど行われてきたが、上で記したように米国のものよりもかなり限定的だ。パロディを認めていない上、著作物を利用した正当性を考慮するのではなく法に照らし合わせてその必要性を問う形になっている。ジョークを面白くするために動画に映画かアニメのクリップを入れたが、それ必要ないよねって言われたらおしまいだ。

参考資料
日本版フェアユース再考のすすめ : https://internet.watch.impress.co.jp/docs/special/1322890.html
著作権法がソーシャルメディアを殺す : https://www.i-ise.com/jp/column/hiroba/2014/201404.html

このため本気でコンテンツを作っている日本のYouTuberたちは企業からの案件でもない限り版権物を動画に1mmも混入させないよう細心注意を払っている。中には企業名や作品名すら口に出すことすら恐れている人も少なからずいる。どういう判断基準で訴えられるのか分かりづらいのも大きい。このことから日本人が合法的にYouTube上でアニメや映画などの映像作品をレビューすることはほぼ不可能となってしまっている。あくまで権利を持っている企業が認知していないか、お目こぼしを頂いているだけの状態だ。これは欧米人の視点からみたら異常なことだ。

日本でも「引用」が認められているのだから合法的にこういった動画を作ることはできるといういい加減なことを言う人もいるが、本編映像使ったら著作権違反で訴えられても当然だとする意見が圧倒的だ。後述するがこれで逮捕者も出ている。

日本の視聴者は英語圏のYouTubeチャンネルでネットから拾ってきた芸能人の写真やアニメキャラクターの画像をモザイクもなしに普通に使っているのを見てカルチャーショックをうけるのではないだろうか。これはフェアユースのおかげにほかならず、欧米ではネット文化として根付いている。多くの日本人は勘違いしてるが、決して日本のコンテンツだからと舐め腐ってアップロードしているわけではないのだ。

その証拠に日本で散々恐れられているディズニー社の作品の本編映像を編集したレビュー動画もYouTubeに多数投稿されており、何年も削除されていない。

アニメだけではなく映画も

英語圏では映画の本編映像を使った映画レビューや考察動画は一大コンテンツだ。英語でタイトルを検索すれば10分をも超えるレビュー動画が多数検索に引っかかる。スターウォーズやマーベル作品など超人気作の本編映像を普通に使っているレビューもたくさんある。

日本のそれなりに登録者数があるYouTubeチャンネルでこのようなことをしたらどうなるだろうか。半年と持たずチャンネルが削除されてしまうだろう。削除されるだけならマシだが日本に住んでいる場合は逮捕され、賠償金を要求される可能性がある。

今年6月、「ファスト映画」という日本の動画投稿業者が逮捕された上に1000万円の罰金を課されている。ファスト映画とはYouTubeにかつて存在した映画のあらすじからネタバレまでナレーションをつけて本編映像を編集して作られた10分程度の動画を多数載せていた業者だ。ナレーションのテキストから読み上げまで外注しており、大量のコンテンツを複数のチャンネルにアップロードしていた。作品に敬意を払わなかったファスト映画と純粋なファン活動が原点であるマーク氏と比較するのは少しズレているが、動画の投稿でアカウントの停止だけでなく逮捕に罰金までいってしまうのは衝撃的だ。

ファスト映画がはたして米国などのフェアユースに該当するかについては疑義があるが、動画を見て「実際にその映画を見に行った」という内容の書き込みと「駄作を見に行かなくて良かった」というような様々な意見があったため映画界に多額の損失を与えた、という統計もとれないような判決内容は少々原告側の主張を鵜呑みにしすぎており感情的すぎるように感じる。

英語圏のレビュー動画でも人気作を本編映像を背後にボロクソに批評する動画もたくさんある。2時間を超えてスターウォーズの最新作をひたすら酷評している動画を見つけたときはたまげたものだった。こういった動画が削除されずに1年以上も残り続けている。たとえ批判であっても議論されつづけること、話題にされることがエンタメにとって重要だという考えが背景にはあるのではないだろうか。

悲しいがちゃんとしたフェアユースが日本の法律に組み込まれても日本の風土だと適切に裁判が行われない可能性が高い、という気さえする。

権利者はどうすべき?

アニメ制作会社も自社コンテンツに対するポリシーやルールを定め、海外のファンに向かって大きく公表すべきだ。すっかり頭を踏みつけられることになれてしまった従順な国内ファンには日本の現行法でも通用する。著作権違反したのだから当たり前だ、図々しい、となぜか権利者側になったつもりで発言する者さえ出てくるだろう。しかし海外に向けては違ったアプローチが必要だと考える。

日本は年老いた国だ。やること成すこと全てが遅いこの国では政治がルールを定める前に権利会社がその機動力をもって海外のファンには海外のルールを適用すべきだと思う。

日本のアニメが近年ここまで海の向こうで人気になったのはYouTube上で活動しているいわゆる”Anituber”の功績は大きいと考える。普通の日本人のオタクが知らないようなマニアックな作品も光が当てられることもある。自社コンテンツのファンである人気YouTuberがプロモーションをするということはつまらない芸能人を使って宣伝するよりも格段に宣伝効果があるだろう。こういったYouTuberを背後から刺すということは彼らが抱えている何十万〜何百万の海外ファンを敵に回すことにもなりかねない。

もっとも、東映以外のアニメスタジオがこういった海外YouTuberのアニメレビュー動画の削除活動を行っているのを聞いたことがないため、多くのアニメ制作会社は容認しているのではないかと思っている。そもそもYouTubeの本社がある米国で訴訟を起こされたら負ける可能性があるよという話だ。

数十年前は米国企業がその権利を振りかざし弱者を叩いて回っているのは傲慢であると日本では言われていた。ミッキーマウスを著作権の番人のように扱うパロディもネット上では流行っていた。しかしいつの間にか日本企業が後ろ指を刺される立場になっているように私は感じる。特にゲーム業界では日本企業が欧米のそれに比べて配信できない区間を設けたり、そもそも配信を禁止していたりと厳しすぎると批判されることもしばしばある。

日本のアニメ産業は頭打ちになりつつあるが海外のアニメ産業は急拡大を続けており日本の産業に匹敵する規模になりつつある。日本のアニメ産業が成長を続けるには人口減少し経済が停滞している日本だけではもはや無理だろう。外国人クリエイターだけでなく海外の市場も今まで以上に重要になってくる。エンタメは人の心ひとつで良し悪しが決まってしまうため、こういった作品とは直接関係のないことが海外ファンがアニメから、ひいては日本から心が離れていく原因にならないことを祈るばかりだ。

おまけ:KADOKAWA

だいぶ脱線するが、カドカワ株式会社は「GeeXPlus」という事務所を立ち上げ、日本のゲームやアニメの紹介などを行っている海外のYouTuberと自ら進んで交流を図っている。どのような労働契約なのかはわからないが日本に彼らを招き活動を支援している。

数年前まではバーチャルYouTuberはキズナアイくらいしか認知されていなかった海外でホロライブの人気が爆発したも彼らが「Trash Taste」というアニメポッドキャスト・チャンネルで紹介したおかげでもある。

Trash Taste
A podcast with attitude that hits different.

彼らは日本のサブカルだけではなく日本の文化や生活習慣など良いところ悪いところ含めて実直でカジュアルに議論・紹介している。海外のオタクや非オタクに対しアニメ業界だけではなく日本そのものへの理解を促せているように感じる。KADOKAWAの潤沢な資金が成せる業だろうけれど、今後ソフトパワーを高めたいならばこういった柔軟な投資も有効なのではないだろうか。

おわり

Photo by Markus Winkler on Unsplash

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