AMD RX 6500 XTは2016年の同価格GPUよりひどい?

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今月24日、AMDが今の深刻なグラフィックボードの供給不足を解決すると期待されている「AMD Radeon RX 6500 XT」を日本で発売した。RX 6500 XTはカジュアルゲーマー向けのローエンドGPUという位置づけでモバイル向けに開発されたチップを流用している。TSMC社の6nmプロセス技術で製造された初のNAVI21 Radeonであり、発表当初は大きく注目されていた。

各メディアやレビュアーにもサンプルが配布され、その性能が明らかになるにつれ多くの失望の声が上がってきている。

スペック

RX 6500 XTRX 5500 XTRX 580
発売日2022年1月19日2019年12月12日2017年4月18日
MSRP(ドル)200ドル200ドル200ドル
ストリーム・プロセッサ102414082304
ダイサイズ107 mm2158 mm2232 mm2
コア/ブーストクロック2610 / 2815 MHz1717 / 1845 MHz1257 / 1340 MHz
メモリ規格GDDR6GDDR6GDDR5
メモリデータ転送速度18 Gbps14 Gbps8 Gbps
メモリバス幅64-bit128-bit256-bit
メモリ帯域幅144 GB/s224 GB/s256 GB/s
VRAM容量4 GB4 or 8 GB4 or 8 GB
TBP(消費電力)107 W130 W185 W

スペック表だけでも狭いメモリバス幅と帯域幅が目を引く。いくらクロック数が高くともメモリ帯域が狭いとクロック数が大きく下回るGPUにゲーミングパフォーマンスで負けることがある。これはその典型例と言える。

Vegaシリーズで高価すぎるHBM2メモリを積むなどした失敗の反省からかメモリ性能をかなり制限しているが今度は反対方向にやりすぎている。

PCパーツのレビューで有名なYouTubeチャンネルの「Hardware Unboxed」が12ゲームのベンチマークを行った結果を公表している。その結果は、PCIe 4.0では前身であるRadeon RX 5500 XT [4GB]以下、PCIe 3.0のシステムではRadeon RX 570 [4GB]にも劣る性能という非常に残念なものだ。

製造プロセスが6nmまで微細化されたため、消費電力もかなり減ったと思うかもしれないが、他の同性能帯のGPU、Radeon RX 5500 XTやGeForce GTX 1650 Superなどに比べ実使用環境下での消費電力は目をみはるものは特にはないのがさらに残念と言わざるおえない。AMDかベンダーが無理やりクロック数をいじっているのかもしれない。

「Gamers Nexus」チャンネルではRX 6500 XTはPCIe 4.0のシステムでRadeon RX 580にほとんどのベンチマークで打ち負かされてしまうという結果になった。Radeon RX 580はRadeon RX 480の名前を買えただけのグラボだから6年も前の同価格帯(MSRP)グラボに負けていることになる。

さらにこのRX 6500 XTの奇妙なところは本来普通のGPUがあってしかるべき機能やコンポーネントが不足しているところだ。

RX 6500 XTの主な問題点を大別すると
・4GしかないVRAM(ビデオメモリ)
・PCI Expressレーンが4つしかない
・ハードウェア・エンコード機能が非搭載
・性能と比較して不相応な価格
の4つだ。

4GB VRAM

RX 6500 XTは発売前までは4GBしかないVRAM(ビデオメモリ)は好材料だと見られていた。今もっとも人気のある仮想通貨「Ethereum(イーサリアム)」は最低限6GB以上のVRAMが必要だ。Ethereumをマイニングするのに必要なDAGファイルはVRAM上に収める必要があり、4GB以上の領域を専有する。このことからRX 6500 XTは仮想通貨マイナーから買い占められる可能性が低く、多くのカードがゲーマーの手を行き渡るというわけだ。Infinity キャッシュが搭載されていることも期待される理由であった。

だが、発売後になって16MしかないInfinityキャッシュは焼け石に水であった上、少ないVRAMが後述する少ないPCIeレーンと合わさって大きく性能の足を引っ張ってしまうことがわかった。VRAMが少ないときにゲームはシステムメモリを利用するわけだが、PCIeレーンが4つしかないため転送量が多くなると「GPU↔CPU↔メモリ」のデータの受け渡しがスムーズに行えなくなりゲーミングパフォーマンスに影響してくる。これがPCIe 3.0だと顕著に現れてくる。

PCIe x 4

RX 6500 XTはPCI Expressレーンが4つしかなく残り12つの配線はダミ−だ。これはデータ転送速度が早いPCIe Gen4の場合そこまで影響は大きくないが、Gen3にしか対応していないマザーボードに搭載するとひどい結果となる。

どれくらいひどいかと言うとPCIe 3.0×4だとデータ・スループットは約4GB/s、PCIe 4.0×4だと約8GB/sだ。おおよそ半分の転送速度が切り落とされてしまう。しかもレーンを減らすこれと言った納得がいく理由が見えてこない。VRAMやコアユニットを減らすのならば劇的なコストカットになるのでわかるが、PCIeレーンを減らすのがどれだけの製造費用削減になるのか疑問が尽きない。

前述した「Hardware Unboxed」チャンネルのベンチマークによれば、PCIe 4.0の平均79 FPSPCIe 3.0は平均62 FPS、約21%の性能低下となっている。しかもこれらの結果は他のGPUで行うようなグラフィックス最高設定でのベンチマークではなく、低中設定に落としての結果だ。「Gamers Nexus」のベンチマークではゲームによっては15〜17%の性能低下となった。

少なくとも2〜3年以上前のPCをグラボだけ変えてまだ運用したいという人には向かない商品だ。

ハードウェアエンコード機能がない

ハードウェアエンコーディングができないということは他のデスクトップ向けGPUのようにRadeon Reliveと言ったソフトウェアを使ってプレイ映像をキャプチャして動画クリップをオンラインで友達と共有できない。RX 6500 XTでこの機能を使いたい場合は内蔵GPUを持ったCPUを購入するしかない。

デコーディングではH.264、H.265をサポートしているが、YouTubeやNetflixなどが採用しだしている次世代コーディック「AV1」に対応していない。ホームシアターに組み込む場合は注意が必要だ。動画再生支援パーツとしてもあまり長く使えそうにないボードだ。

米国で280ドル、日本で400ドル

AMDによるMSRP、日本で言ういわゆる希望小売価格は199ドルだった。はっきり言ってこれでも性能・機能を考えたら高いがシリコンが搭載されていたらなんでも高額になる今のご時世。案の定先行販売されていた米国では280ドル以上の価格がついてしまっている。

さらにひどいのが日本での販売価格。発売日には40,000円以上の高値がついてしまっていた。約10日前にRTX 3050が日本で40,000円オーバーで売られ、一瞬で完売したことで海外のテックメディアは少しざわついたがそれ以下の性能で機能にも大きな制限がつくRX 6500 XTがこの価格で売られているのはあまりにも販売代理店に足元を見られすぎているのではないだろうか。RTX 3050が一瞬で売り切れになったことから日本国内のGPU需要は決して少なくない。

さすがに日本の消費者もこの馬鹿げた値段に辟易としたのか、RX 6500 XTはかなり売れ残っているようだ。転売屋すら寄り付いていない。そのためか今は30,000円台まで値下がりしている機種がほとんどだがまだまだ割に合わない価格だ。個人的にはMSRP付近である20,000円〜25,000円くらいの価格ならば許容範囲だが、それ以上となると全く食指が動かない商品だ。

誰が買うべき?

このカードは少ないVRAMとエンコード機能を廃止したことから、カジュアルゲーマーが他に選択肢がない場合に仕方がなく買う商品。武器で例えるなら戦時急造品みたいなものだ。 しかもPCIe 3.0で動作させた場合、性能が著しく低下するためGPUだけ買い換えるわけにもいかない。PCIe 4.0で動作させたい場合は最新のマザーボードとCPUが必要になってくる。 PCIe 4.0のシステム構成が整っていない人にとっては余計な出費が増える。

ただ今年、2022年から低価格なゲーミング専用PCを最新のパーツで1から組み上げたいという人にとっては良い…妥協できる商品かもしれない。この条件だとただのディスプレイアダプタとしての使いみち以外の用途がようやく見えてくるからだ。RX 6500 XT(PCIe 4.0)と同等以下程度の性能であるRX 570は5年前に発売されたGPUだが最新のゲームでも低中画質でフルHD1080pならばそこそこ動作する良品だ。いまだに20,000円超と高額で取引されていることから現役で使っている人もまだまだいる。

しかしゲームをプレイしながら配信もしたいとなるとハードウェアエンコード機能がないのは痛い。配信や録画を全く行わないと決めているのならば良いが、ソフトウェアエンコードとなるとCPUに負担がかかってくる。そしてこのようなローエンドカードを購入する層がハイエンドCPUを買うとはあまり考えられない。CPUの負荷がかかるゲームだと録画や配信をしながらプレイすると今度はCPUがボトルネックになってしまう可能性もあるのではないだろうか。

くわえて30,000円台ともなってくるとオークションなどでRX 6500 XTよりも高性能なRadeon RX 580 8GBやGeForce GTX 1650 Superなどが手に入る。現状の価格(30,000円~40,000円)で買う利点といえば消費電力が古いマザボよりは低いことと、発売されたばかりのグラボだから当分壊れる心配がないくらいのものだ。

高画質60FPSで快適にゲームができるPS5が(もし抽選で当たれば)定価で40,000円で買えるわけだから、いかにこのグラボを買うのがいかにバカバカしいのかがわかる。

最後に

ここ5年くらいグラボ市場をちょくちょく観察してきたが、記憶している限りこれよりもひどいグラボは詐欺まがいのNVIDIA Geforce GT 1030 DDR4くらいのものだ。いくら資材や半導体製造装置が高騰しているとはいえ、おおよそ6年も前に発売された同価格帯(MSRP)の自社製品よりも性能が低い、機能が少ない商品は擁護のしようがない。市場も似たような反応なようでこの半導体不足の中、発売直後にも限らずRX 6500 XTは売れ残ってしまっている。

なぜこのような製品が生まれてしまったのか。AMDが昨今サーバ向けのGPUやモバイル、ノートPC向けのGPU開発に注力しており、デスクトップ向けGPUは二の次だからだと容易に想像できる。IntelがXeシリーズを本格的に売り出す前にモバイルGPU市場を奪い取りたいという意図を年初に行われたCESで感じた。

NVIDIAは企業イメージというものをよく理解しておりデスクトップ向けGPUでトップを譲る気はサラサラない。非効率で高額だろうが、巨大なダイとクーラーを搭載してでも王冠を死守している。AMD RadeonもRDNAアーキテクチャを採用してからかなり競争力のあるGPUを発売しているが、頂点を取れないでいる。このことからいつまでも業界2番手の性能がイマイチな方のGPUブランドというイメージを払拭できずにいる。このイメージは消費者の消費行動にもおそらく影響を与えており、デスクトップ向けGPUはAMDも出荷数自体は増えているにも関わらず、マーケットシェアはここ数年減少傾向だ。なのでデスクトップ市場でNVIDIAに殴りかかるよりも省電力性で優位にあるモバイルGPU市場で戦って利益を上げた方が賢い選択だ。だがこのような流用品を市場にばらまくのは返って企業ブランディングという点からみたら損をしている気がしてならない。どうせ取っといたらOEMが買い取ってくれるだろうものをわざわざデスクトップで出してきたのは謎でしかない。

ひとつこのボードから見える面白いことがあるとすれば、小さなダイでなかなか素晴らしいクロックスピードを叩き出していることだ。RDNA2はオーバークロックがしやすいアーキテクチャとは聞いていたが、Polaris世代の約半分のダイサイズに縮小しているにも関わらず2倍のクロックスピードがでている。ここ数年でいかにRadeonが進化してきたのかが実感できる。PCIeレーンを4つにしたことですべてを台無しにしてしまっているが、ダイサイズを2/3くらいに切り落としてもパフォーマンスはそう変わらないのではないだろうか。

多くの海外メディアはRX 6500 XTについてかなり辛辣な評価を下している。AMDもさすがにこのリリースから何かを学んでいるはずだ。あまり期待しすぎずに待っていよう。

Photo by Christian Erfurt on Unsplash

おわり

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