CentOSはウェブサーバを管理するのに人気のLinuxベースのオペレーティング・システムだ。このOSはソースコードが公開されているRed Hat Enterprise Linux(以下 RHEL)にいくつかマイナーチェンジを加えたクローンOSだ。高額なサポート料金を払わずに実質RHELを利用でき、RHEL系しか対応していない「cPanel」などの人気Webホスティングコントロールパネル等のツールをインストールできる。またRed Hat社の優秀なドキュメントをそのままCentOSでも活用できる。それに加えて10年間という他にはない長期間のサポート期間を設けている。ことから多くの個人や中小企業のウェブサーバ運営などにCentOSは採用されてきた。
CentOS と Red Hat とIBM
CentOSプロジェクトは2004年からボランティアによってビルド、配布されてきたが2014年にRed Hat社がより直接的な支援を行う環境を整備するためとして吸収した。
その後2018年にRed Hat社自体がIBM社により買収されることになる。IBMにとって過去最大規模の買収だったとしてかなり話題となった。Red Hat社はIBMの買収以前より業績は安定しており、決して資金繰りの悪化などからの身売りではなかった。
そして2020年末の今、CentOSプロジェクトの運営方針は大きく変更された。Red Hat はCentOSコミュニティと外面からみたら良い関係を築けているように見えていたのでショックを受けた方も多いのではないだろうか。もっぱら IBM がこの路線変更に関わっているのではないかと噂されているが真相はわからず、もしかしたら Red Hat が CentOS を吸収した時から決まっていたことなのかもしれない。
CentOS から CentOS Stream へ
12月8日に CentOS ブログから「CentOS Stream」へとプロジェクトは移行する発表がなされた。CentOS 7 のサポート期間は 2024年までとなり、CentOS 8 も2029年まで10年間のライフサイクルが設定されていたが、理不尽なことに来年2021年末にサポート終了となる。CentOS 6 から CentOS 8 に移行して一息ついていた管理者の方も結構おられたのではないだろうか…
Linux ウェブサーバで最も長いサポート期間のディストリビューションが死んだことになる。
CentOS Stream がなにかと簡単に言えば、 RHEL の Nightly ビルド、 Debian で言えば Unstable 版という位置づけのようだ。RHEL 製品化前の最後のテストベッドといった感じだろう。ローリング・リリース方式を採用している。
CentOS の公式ブログでも同様のことを記載されており、2つの似通ったビルドを取り扱うよりも RHEL の一歩先の姿をコミュニティに見せることが目的であるとしている。私の認識ではこの位置づけは Fedora がになっていると思っていたのだが間違っていたのだろうか。
相当の反響があったらしく、 CentOS Stream は RHEL と同程度の安定性を目標としているという内容の記事を新たに CentOS チームのブログに掲載された。
詳しく知りたい人は CentOS Stream ブログの翻訳を行っている「赤帽エンジニアブログ」様をチェックすべし。
しかし既存の利用者や開発者で納得した人が少なかったからか、ラディカルな反応が起こっている。
Rocky Linux が発足
CentOSに代わるプロジェクトとして早速「Rocky Linux」というプロジェクトが発足された。すでにGitHubリポジトリも作成されていて開発が進められる状態になっているようだ。このプロジェクトはCentOSの共同創設者であるGreg Kurtzer氏が発起人だ。
Windows や macOS のエコシステムに取り囲まれている方には分かりづらいだろうが、これがOSSの良いところだ。あるOSSプロジェクトがおじゃんになっても需要がある限り新たなフォークが出現する。
Rocky Linuxは、CentOSが方針を変えた今、Red Hat Enterprise Linuxとバグまで100%の互換がある商用OSです。
いくらRHELと同等の安定性を目標に開発を行っていくにしても CentOS Stream は RHEL の完全な互換とは言えないのは確か。片一方でバグが再現できないということも出てくる可能性はある。そういった意味でも完全互換は重要だ。
Lenix プロジェクトが発足
このプロジェクトは Cloud Linux を開発しているチームが立ち上げたプロジェクトだ。ややこしいが CloudLinux OSはCentOSをベースとして様々なツールを提供しているOSだ。当方は使ったことがないのでどのようなサービスを提供しているのかはわからない。しかしCentOSがベースである以上今回の決定で新規プロジェクトを立ち上げざる得ない形なのだろう。
仮称プロジェクト「Lenix」を立ち上げ、人材を募っている。ただでさえディストリビューションが多いのだからRocky Linuxと合流して共同開発すれば良い…といかないのがOSSである。
cPanel の発表
冒頭でも述べたように cPanel は Webホスティングサービスを簡単にしてくれるコントロールパネルだ。多くの企業で使われているが現状 cPanel は3つのディストリビューションでしか使えない。RHEL 、CloudLinux と CentOS だ。 CentOS Stream が不満なら RHEL に移行すれば良いじゃないと簡単に公式ブログでは言っているが、中小企業にとってウェブサーバのOS費用だけで年間何十万円払うのは厳しいところも多い。
今回の CentOS の発表をうけて cPanel は以下のような発表をおこなった。
- ・cPanel 公式でも CentOS Stream は商用利用をしないほうが良いとしている。
- ・2021年後半までに Ubutnu LTS に cPanel を対応するよう開発に取り組んでいる。
- ・CentOS 7 のサポート期間終了までcPanelをサポートする
- ・CentOS 8 のサポート期間終了までサポートするが、サードパーティ製のリポジトリからアップデートを取得できるようになった場合 2029年までサポートする予定
- ・CloudLinux のサポートを継続する約束を取り交わした
ということで cPanel チームとしては Debian 系列に軸足を移しそうな動きをしている。 Ubuntu LTS はサポート期間が5年と長いがそれでも CentOS の約半分である。他のディストリビューションへの移行をするにしろ今動きだしているプロジェクトの動向をしばらく見守ってから検討した方がよさそうだ。
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