ThinkPad シリーズ最上位モデルである X1 Carbon は軽量丈夫で携帯性を重視した 14インチディスプレイのビジネスノートPCです。
Lenovoさんから「ThinkPad X1 Carbon Gen 11」を貸し出していただいたのでレビューさせていただきます。
デザイン
天板にはカーボンファイバーが使用されており、格子状のパターン見受けられます。
本機はアメリカ国防総省が制定した調達規格「MIL-STD-810H」に準拠した堅牢なつくりです。一般的なデスクの高さ(約 75 cm)からどんな角度で落としても壊れない設計です。
ディスプレイは色鮮やかなOLEDディスプレイです。
180度ペタリと平らになります。
キーボードの両側と筐体パームレストの下にスピーカーが設けられています。DolbyAtmos対応で立体的な音を提供してくれます。
表面にソフトなマットフィニッシュが施されており手触りがサラッとしていて心地が良いです。ただ金属むき出しのボディに比べて一度油汚れがついてしまうとマイクロファイバークロスでも使わないとなかなか落としづらいのが難点。
あとアルコール消毒など行うと表面の加工が徐々に剥がれていってしまうと思われます。
Lenovo のロゴは強い光を当てないと見えないくらい控えめです。
Intel vPRO プラットフォーム対応ということで Intel 提供をツールを使えば紐づけされた vPRO 対応デバイスのデスクトップや電源などを遠隔管理できるようになります。これによりビジネスシーンにおいてセキュリティを高めるとともに多数のデバイスの保守管理がしやすくなります。
電源ボタンには指紋センサーが統合されています。これだけで格段お手軽にセキュリティを上げることができます。
筐体には ThinkPad シリーズで長らく使われ続けているマグネシウム合金が使用されており、触るとほんのりひんやりします。アルミ合金よりも軽く、軽量化・携帯性への強いこだわりを感じられます。ただアルミと比べて熱伝導率が低いというデメリットもあります。
ちなみにマグネシム合金はアルミニウム合金の約1.5〜2倍高価です。
ディスプレイ
ディスプレイは高解像度 (2.8K(2880 x 1800)) OLED(有機EL)パネルが装備されています。DCI-P3 100%なので色の再現度が素晴らしく画像編集などのクリエィティブな用途にも使えます。
表面には反射防止加工が施されており、輝度も 400 nit と明るめのディスプレイなので野外でも画面が見やすいです。
さらにタッチ対応のIPSディスプレイもオプションとしてあるようでこちらは 500 nit とかなり明るいため、気になるところ。
防汚処理が施されているため筐体とは違い汚れが拭き取りやすいです。
ムラやチラツキなどなく、きれいなディスプレイです。
にじみなどなく、きれいに文字を表示できています。
入力デバイス
トラックパッドはガラス製のためコンコンと控えめで高級感のあるクリック感。パームレスト同様サラサラしていて滑りが良いです。ただもう少しトラックパッドが大きければよかったという場面もありました。
キーピッチは 19 mm と広めに取られているのでミスタイプしにくいです。またキーキャップがシリンドリカル型でデスクトップキーボードのように中央に向かってわずかにくぼんでいます。これによって指に優しくフィットし長時間のタイピングしても疲労感が少ないです。キーの押し込みの深さ、キーストロークはやや短めな印象ですがソフトで打鍵感は良いです。
キーを打っていて筐体がほんのわずかにたわみましたが気にならない程度のものでした。
タッチパッドの上にある3つのボタンはマウスの右クリック、中央ボタン、左クリックに対応しており、人差し指で赤いトラックポイントをグリグリ操作しながら親指でこれらのボタンを使います。こうすることでタイピングポジションから手を離すことなくポインタを操作することができます。慣れるとかなり操作が早くなりそうです。
スペック表
プロセッサー | Intel® Core™ i7-1365U プロセッサー (Eコア 最大 3.90 GHz Pコア 最大 5.20 GHz) 10 Core 12 Threads |
OS | Windows 11 Home 64bit |
グラフィックス | CPU内蔵 1.3 GHz (Intel® Iris® Xe Graphics eligible) |
メモリー | 32 GB LPDDR5-6400MHz (オンボード) |
ストレージ | 1 TB SSD M.2 2280 PCIe-NVMe Gen4 Performance TLC OPAL対応 |
ディスプレイ | 14″ 2.8K (2880 x 1800)、OLED、アンチグレア/反射防止/防汚処理、タッチ非対応、100%DCI-P3、 400 nits、 60Hz |
内蔵カメラ | IR&1080p FHDカメラ (プライバシーシャッター付), 人感検知機能付 |
バッテリー | 4セル リチウムイオンポリマーバッテリー 57 Wh |
電源アダプター | 45W |
ワイヤレス | Intel® Wi-Fi 6E AX211 2×2 & Bluetooth® |
保証は 3 年間、専用の窓口と専属のスタッフがつくプレミアサポートがついてきます。なので故障したときにダウンタイムがかなり減らせると思います。
パフォーマンス
プロセッサーは Intel 製ポータブルデバイス向けの電力消費の少ない U シリーズを搭載。ハイパフォーマンス(P)コア 2 つと省電力(E)コア 8 つで構成されており、それぞれ最大でPコアは 5.20 GHz、 Eコアは 3.90 GHz 出力できる高性能 CPU です。
ベンチマーク
圧縮解凍アプリケーション「7-Zip」のビルトイン・ベンチマークの結果です。処理時間が短いほどシステムの演算処理やメモリの性能が高いです。だいたい 8 スレッドを占領して 86 秒で 10回 のテストが完了しました。
テスト結果を見るとシングルコアの性能が露骨に出る圧縮速度が Ryzen 5800x3D に匹敵する速さだということがわかります。
CineBench R23 のベンチマークスコアです。マルチコア性能はさすがに 16 スレッドの同時処理ができる i5-13500H に軍配が上がりましたが、シングルコアの性能はなかなかのものです。
ゲーミングパフォーマンス
「ThinkPad X1」は仕事人向けのノートPCなのでゲーミングパフォーマンスを気にする人は少ないと思われますが一応テストしてみました。
本機には専用GPUは搭載されておらず、CPU内蔵の「Intel Iris Xe Graphics」を利用しているので最新のゲームを高画質で快適に遊べる性能ではありません。ただこの内臓 GPU でも 1.3 GHz まで出力できるので多くのゲームは中から低のそこそこの画質でプレイできます。
カメラ
プライバシーシャッターも装備しています。
本機にはインカメラの高画質化を図る「MIPI CSI-2」システムが搭載されています。デジカメのようにカメラモジュールとSoCが直接接続されておりハードウェアによる画像処理が行います。このためソフトウェアに依存せずCPUに負荷をかけることなくスムーズに映像を取り込めます。
またカメラシステムは3つの1080pのカメラで構成されています。1つ目がIR(赤外線)なしの1080pカメラ f値 2.0、2つ目がIRとRGBカメラがハイブリッド構造の1080pカメラ、そして3つ目がIRとRGBカメラが独立している1080pカメラです。こうすることで映像が暗くなりがちなIR+RGB一体型カメラの問題を回避して明るい映像を取り込むことができます。
結構暗い環境でクマのぬいぐるみを撮影しましたがしっかりと光を拾って毛並みまで表現できています。ミッドレンジスマホ並みに良い画質です。
ポート
正面と後ろのヒンジからの視点です。
正面から見るとマイクの穴が4つあります。
本機にはよくショットガンマイクなどにみられる360度集音クアッドマイクが搭載されています。Web通話などで話者の声を拾いやすくする効果があります。
I/Oポートも昨今のモバイルPCとしては充実していると言えます。よほど古いプロジェクターにでも出会わない限りまず困ることはないでしょう。USB Type-A と HDMI もフルサイズのものが用意されているのが個人的には高評価です。
オプションとしてSIMカードスロットを装備できるようです。
駆動音と冷却性能
冷却性能
冷却のためにデュアルファンが搭載されていますが配置に疑問を覚えました。
分解した様子を掲載したサイトなどを見ると ThinkPad X1 Gen 11 のファンの配置は左図のようになっていました。
一般的なデュアルファン搭載機はプロセッサーを挟み込むようにファンを配置しています。これはヒートシンクが左右に伸びているため排熱効率が高いとされているためです。
しかし本機はプロセッサーの左側へ伸びたヒートシンクしか冷やしていないようです。このためデュアルファンの利点を十全に活かせないと思われます。CPU の右側の排熱が追いつかなくなってサーマルスロットリングしやすい可能性があります。
実際使っていてCPUがあるファンクションキー周辺の温度が結構熱くなっていました。筐体が薄いためなかなか厳しいと想いますがここらへんをなんとかしてほしいところではあります。
駆動音
空気取り入れ口はメッシュで覆われているため大きなゴミが入り込むのを防止してくれます。
ファンの静音性能は良いようでフル稼働してもサーッという音で不快な高音を発せず、さほどうるさいとは感じませんでした。
YouTubeを視聴しながら文章編集などの軽作業ならばほぼ無音です。
タスク | ファンの騒音 |
---|---|
アイドル | 28 db |
動画視聴(YouTube) | 28 db |
Blender レンダリング | 40 db |
携帯性
駆動時間や重さなど、外で持ち歩く際の携帯性を見ていきましょう。
バッテリー
ThinkPad X1 Gen 11 のバッテリー容量は 57 Wh です。14インチ型モバイルノートとしては多めの容量です。
製品名 | JEITA 2.0 | バッテリー容量 |
---|---|---|
Lenovo ThinkPad X1 Gen 11 ( i7-1365U) | 19.09 時間 | 57.0 Whr |
HP EliteBook 1040 G10 ( i7-1365U) | 13.16 時間 | 51.0 WHr |
DELL Latitude 14 7340 (i7-1365U) | 23.20 時間 | 57.0 Whr |
東芝 dynabook B75/LW (i7-1365U) | 11.00 時間 | 非公開 |
駆動可能時間は公証(JEITA 2.0)でi7搭載型は19.9時間、i5搭載型は 28.5時間です。i7搭載型を PCMark 10 のオフィスでの一般的な作業負荷を想定した「Modern Office」シナリオでテストを実施したところ、10時間8分でした。 x86_64 システムとしては長い駆動時間といえます。また i5 搭載型の数値は他社製品に抜きん出ているのでぜひともテストしてみたいところです。
重量
「ThinkPad X1 Gen 11」本体の重量は 1,185 g と14インチノートとしてはかなり軽い部類に入り、持ち運びは非常に楽です。片手で持ち上げてもう片手でタイピングできるくらい軽いです。
ですが、バッテリー容量を犠牲にして軽量化をはかった NEC の「VersaPro」VGシリーズ、 ASUS の「ExpertBook」シリーズや富士通の「UH」シリーズなど、 1 kg を切る14インチノートはそこそこあるので最軽量というわけではないことは付け加えておきます。
価格
ThinkPad X1 Carbon Gen 11 は税込みで 359,700円です。
小売希望価格(税込み) | ダイレクト販売価格(税込み) | |
---|---|---|
Lenovo ThinkPad X1 Carbon Gen 11 | ¥359,700 | ¥302,500 |
HP EliteBook 1040 G10 | ¥359,700 | ¥353,100 |
DELL Latitude 14 7340 | ¥277,915 | ¥269,390 |
dynabook B75/LW | ¥616,660 | ― |
昨今高い高いと言われている ThinkPad X1 ですが同性能帯の法人向けビジネスノートとしては標準的な価格です。 (i7-1365Uプロセッサー、32GBメモリ、512GB SSD搭載構成)
総評
Pros(良い点)
- 軽量
- 丈夫
- 優秀なキーボード
- 高解像度で発色の良いディスプレイ
- バッテリ容量が大きい
- クワッドマイク
- インカメラ
Cons(悪い点)
- 冷却性能
- 汚れがつきまくる
「ThinkPad X1 Carbon Gen 11」はビジネスノートとしては高い処理能力を持っており一般的な用途やオフィスユースとしてはかなり過剰性能気味です。軽量なにのにもかかわらず、バッテリー容量も大きく稼働時間も長時間の持ち運びに最適です。なによりもキーボードが素晴らしく作業が捗ることでしょう。
ただ冷却性能がいまいちなので動画編集などや長時間のコンパイルなどには向きません。まあそこら辺のクリエイティブな作業は MacBook Pro の領域なのであまり関係ないと思います。
価格は他の法人向けノートPCと比較して標準的な部類に入ります。オフィスや自宅まで専門家が出張修理をしてくれる充実のサービスも完備しておりダウンタイムを最小限にできます。
作りはクォリティが高く頑丈で一見技術的には保守的な製品に見えますが、クワッドマイクやハードウェアレンダリングの多眼カメラを採用するなど最新のトレンドや技術もしっかりと取り入れています。
また実際に手に持ってみると高解像度かつ美麗なディスプレイと洗練されたデザイン、高級感があり、ついつい欲しくなってしまう一品です。間違いなく所有欲を満たしてくれるでしょう。
おわり
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