HDD界の嫌われ者、SMRとは?

ハードウェア
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※アイキャッチ画像はAIが生成したものです。実際のSMRとは異なります。

ハードドライブディスク(HDD)はデータを磁気信号に変換し、金属の円盤(プラッタ)の表面に塗られた磁性体を磁化することでデータを記録する記憶装置です。

一見みな同じに見えるHDDですがデータの書き込み方法が複数種類あります。現在広く普及しているのは「垂直磁気記録方式、PMR(Perpendicular Magnetic Recording)」と2014年頃から出始めた比較的新しい「瓦磁気記録方式、SMR(Shingled Magnetic Recording)」の2種類です。PMR方式は一般的に「 従来磁気記録方式、CMR(Conventional Magnetic Recording)」と呼ばれています。

概要 SMRとは

SMR方式はHDDをより安価に大容量化を図るための書き込み方式です。

従来のHDD(CMR)は同心円状のトラックに重ならないようデータを書き込みますが、SMR方式は屋根に瓦を葺(ふ)くようにトラックの一部を重ねて無駄なくデータを書き込みます

CMR と SMR
CMRとSMR

ややこしいことに SMR方式にも「Host Managed SMR(HM-SMR)」「Host Aware SMR(HA-SMR)」「Divice Managed SMR(DM-SMR)」の3種類があります。HM-SMR、HA-SMRはエンタープライズ向けに販売されており、一般消費者向けに販売されているものはDM-SMRになります。

このDM-SMR方式はデバイスのコントローラーがすべての読み書きを制御するので、あたかも普通のHDDであるかのように使えます。

しかしながらパフォーマンスが低下しやすいという欠点があります。本記事はDM-SMR方式に焦点を絞って解説いたします。

技術的限界を乗り越えるための裏技

SMR方式が誕生した経緯を簡単にお話します。HDDにはそれぞれ読み出しヘッドと書き込みヘッドがあります。これらを小型化することで記録密度を向上させ大容量化を実現してきました。

ですが、読み出しヘッドに比べ、書き込みヘッドの小型化が徐々に停滞していきました。磁界を発生させることで記録するわけですからどうしても書き込み幅が大きくなってしまいます。

そこで余計な部分を削るためにトラックの一部に重ねて書き込んでしまえ、となったのがSMR方式です。こうすることで読み出しヘッドが読める限界ギリギリを攻めることができるようになりました。おおよそ25%〜50%ほど記録密度を向上させることができます。

このようにSMR方式は書き込みヘッドの限界によって産まれた裏技的な技法です。そのためデメリットもあります。

性能低下対策として搭載されている機能

上の図をみてピンと来る方が多いと思いますが、SMRは書き換えを行うときに複雑な処理を行わなければなりません。

トラック幅は小さくできても相変わらず記録ヘッドがデカいままなわけですから、ディスク上のある領域を書き換えるときに重なってるトラックもまとめて書き換えられてしまいます。そのためデータを他の使われていない領域に引っ越す作業が行われます。このためランダムアクセス性能が損なわれてしまいます。

例えるならCMR界の世界は戸建てばかりで建物ごとに建て替えなどを行えるけど、SMR界は集合住宅しかなく、建て替えるのに住人全員引っ越さなければならないため時間がかかるといった感じでしょうか。あるいは修正テープがなかった時代のタイプライターみたいなものです。

そこで性能低下を抑えるためにメディアキャッシュバンドといった概念が取り入れられました。

メディアキャッシュとバンド
メディアキャッシュとバンド

メディアキャッシュとはその名の通り、一時的なデータの保管場所です。ディスク上に高速な従来通りのCMR方式の領域を設けてそこに一時的にデータを保存し、待機状態のときに処理が遅いSMR部分に吐き出す仕組みです。メーカーにもよりますがSMR方式のパフォーマンス低下の対策として数10GBもの大容量のメディアキャッシュを設けている場合があるようです。低速なQLC SSDがSLCキャッシュを備えているのと構造的に似ています。

河川が氾濫しないようにする調整池みたいなものです。

バンドは、重ね書きするトラック群の最小構成グループです。バンドの間にバンドガードを設けることによって最低限のパフォーマンスを保障します。

これらが一般的に行われている対策です。後述しますがこれに加え、メーカー各社は様々な機能を搭載して性能低下を防いでいます。

メリットは価格だけ

では結局のところ、消費者にとってどんなメリットがあるのか?と言いますと価格だけです。

メーカーにとってはハードディスクに搭載するディスク(プラッタ)の枚数を減らすことができるので製造コストが下げられるようですが、ユーザーにとっては性能面でCMRと比べ良いことは一つもありません。

SMRは大容量化ができるじゃないか、と思われるかもしれませんが、各メーカーは20TB級の大容量モデルでDM-SMR方式のHDDを一般販売してません。技術的問題なのか、セールス的な問題なのかはわかりませんが、メーカーですらSMRの利点をあまり活かせているようには見えません。

SMRはパフォーマンス低下を補うために様々な機能・技術が搭載されているので一般的なユーザーはCMRとあまり性能の違いを感じないでしょう。省エネ仕様のHDDよりも応答速度や書き込み速度が早いというベンチマーク結果もあります。

ですが、待機状態の時にメディアキャッシュからSMRにカリカリとデータを移動しているのが聞こえるのはあまり心地良いものではありません。

大量のRWをすると性能低下が著しい

HDDの性能が最も試されるのがRAID1の再同期処理です。大量の書き込みを行うのであっという間にメディアキャッシュを使い切ってしまいます。

RAIDとは複数のドライブを組み合わせてデータを分散保存して処理を高速化したり、複数のドライブに同じデータを保存して冗長性をもたせる仕組みです。

「ServeTheHome」という自宅サーバーに関する情報を発信しているサイトの管理人がFreeNAS RAIDZ環境でWD社製SMR HDDを組み込み、再同期処理(Resilver)を行ったところ230時間(約7日間半)もかかったという衝撃のデータを公開しました。

CMR方式のドライブは最長で17時間かかりました。キャッシュを使い切るとSMR方式はCMR方式の約14倍も遅いということになります。

STH – WD Red SMR vs CMR Tested Avoid Red SMR

WD SMR訴訟

Western Digitalは2020年にSMR方式のHDDをそれと記載せず、NAS向けとして売り出したことで裁判にまで発展しました。

WD傘下の東芝やSeagateもSMRのHDDをコッソリ売り出していましたが、NAS向けハイパフォーマンスモデルとして売らなかったので難を逃れました。

この裁判により、各HDDメーカーは書き込み方式をパッケージに明記するようになりました。

参考:Law Street – Consumers Present $2.7M Settlement for Preliminary Approval in Western Digital Hard Drive False Advertising Case

耐久性が低いというデータも

SMRの登場当初から内部処理が複雑なため耐久性や信頼性を疑問視する声がありました。CMRに比べどうしてもデータの移動が多くなってしまうので物理的に負荷がかかってしまうのは想像に難くないでしょう。

また、トラック幅の縮小によりデータトラック内の磁区が小さくなるため、読み出しエラーが起きる可能性がCMRよりも高いと言われています。

少し前までこれは噂の域をでませんでしたが、SMR HDDが市場に多く出回るようになって数年を経たため故障率などを公開する企業も少しずつ出てきました。

米ロスに本社をおく Secure Data Recovery社によれば、WD社のSMRは同社CMRに比べ、12.7%寿命が短く、Seagate社のSMRは同社CMRに比べ、19.7%寿命が短いとのことです。

参考:arsTechnica – HDD average life span misses 3-year mark in study of 2,007 defective drives [Updated]

10%〜20%は結構な違いがあるのではないでしょうか。ものによってはCMRより稼働時間が6ヶ月〜12ヶ月くらい短くなるかもしれません。

SMRの使い方としてはパフォーマンスが要求されない安価なデータ保管ストレージやデータのバックアップとして使うのが良いでしょう。読み出しを中心に行う一部のサーバー用途などにも向いているかもしれません。RAIDは厳禁ですが同時録画機能がついたTVなどにも向いていません。

HAMR普及までのつなぎか?

記録ヘッドの研究もされなくなったわけではなく積極的に行われています。保磁力の強いプラッタ塗料とレーザーや電磁波を組み合わせた熱アシスト磁気記録(HAMR)という方式が各社で研究され Seagate 社は2023年現在すでにこのヘッドを搭載した30TB超のHDDを出荷しています。

また、HIMR(熱インタレース・アシスト磁気記録、Heat Interlaced Assisted Magnetic Recording)という方式も研究されています。これはSMRの進化版のようなものでHAMRのレーザーとIMRという技術を組み合わせたものです。出力を簡単に変えられるレーザーの特性を活かしインターレース方式に書き込む方式です。最初に高出力で幅広に書き込む下段トラックに敷き詰めて記録し、次に上段トラックに低出力で細いトラックを書き込むことによってデータ密度を高める技法です。

HIMR
HIMR

参考:国立研究開発法人 物質・材料研究機構 – HEAT ASSISTED INTERLACED MAGNETIC RECORDING

これも上段トラックを書き込む際に下段トラックの上に重ね書きするわけですからパフォーマンス・ペナルティはあります。ですがSMRよりも性能低下が少ないようです。この方式が今後メーカーに採用されるかどうかはわかりませんが、ユーザーが不買運動でもしない限り、こういうSMRの亜種のような方式が今後も出続ける可能性があります。

各メーカーの特徴

SMRの高速化はメーカーがしのぎを削っているので公開情報は少なく、ブラックボックスとなっているところが多いです。判明している情報だけ載せていきます。

Western Digital

WD製SMR HDDはメディアキャッシュを当然採用していますが、TRIM命令に対応しているのが特徴です。HDD SMRはSSDと似た書き込み性質を持っているため、ディスクの未使用領域がなくなってしまうとドライブがデータをすぐに動かせる領域を探し回ったり書き換えたりしなければならずパフォーマンスが著しく低下します。

事前にハードドライブに削除可能な領域を知らせる TRIM命令に対応することによって、効率的にデータの書き換えができるようになります。また条件が揃えばTRIM情報を使ってメディアキャッシュを介さずにSMR部分へ直接書き込みを行うこともできるようです。

ところが、TRIM命令を出してしまうと削除したデータは復元ソフトウェアを使っても復旧がほぼ不可能になるという欠点もあります。ゼロライトするわけではないので専門業者に頼めば復活できる可能性はあるかもしれませんが、高額になるでしょう。

Seagate

Seagate製SMR HDDは「マルチ・ティア・キャッシング(MTC)」という技術を採用しています。NAND、DRAM、メディアキャッシュなどの複数のレイヤーを設けてSMRへの読み書きを最適化する技術です。

Seagate社はSMR方式を採用しているHDDのリストを公開しています。

東芝

東芝製SMR HDDはホームページにSMRに直接書き込む技術があると明記されているのでWD同様TRIMに対応しています。

参考サイト

図解は LibreOfficeで作られています。

おわり

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