まえがき
数年前にとんかつのつなぎ、衣の代用としてマヨネーズとパン粉のみを使う「ずぼらとんかつ」なるものがテレビで紹介された。クックパッドでも大々的に特集され、革新的な裏技だとして多くの模倣レシピが出回り、いまだに再生産されている。
豚ロース肉にマヨネーズをぬり、パン粉をつけて揚げれば出来上がりなので片付けも楽ちんという触れ込みだ。
しかし、これがどうやっても美味しいトンカツが作れない。そしてこのページにたどり着いたということはご覧になっている方もせっかくの高いロース肉を素揚げにしてしまった経験があるではないだろうか。
度重なる失敗を経てマヨネーズは決して小麦粉と卵の代用とはなりえないことを確信したため、これ以上被害者が増えないようここに書き綴ることにした。
マヨネーズはほぼ油
マヨネーズの原材料は酢、卵や塩砂糖そして7割くらいが植物油。そう、マヨネーズはほぼ油だ。
この植物油は揚げ油に投入したあとに溶け出してしまい、パン粉を支える役割を果たすのはわずかばかり混ざっている卵のタンパク質だけになる。
多くのサイトでは「マヨネーズを少量しか使用しません」と書いてあるがこれは罠。たっぷりめにつけないと揚げている最中にパン粉がバラバラになる。
問題のクックパッドさんの記事中の完成写真を見てほしい。作った人の腕前が良いのと写真のとり方が上手なのでパッと見うまく揚がっているようにみえる。
が、よーく画像を見るとパン粉がかろうじて乗っているだけの肉だ。ところどころ衣がとれかかっていたり、黒く焦げてしまっている箇所があるのがおわかりいただけるだろう。これは調理人の腕が悪いのではなく、マヨネーズから溶け出した大量の不純物で焦げやすくなっているせいだ。
CookPadさんは実際に作った写真を掲載しているので良心的だ。とんかつ屋で撮ってきたと思しき写真を載せているサイトもある。とんだ詐欺行為だ。
筆者もこれを真似て作ったがご覧の有様だ。
パン粉だけはサクサクに揚がるのだが……いや、カラッと揚がりすぎるために極薄のマヨネーズ衣が剥がれてしまう。ササミならともかく、とんかつに使うような重量があるロース肉だと引き上げる際に自重に負けて衣が壊れる。
揚げ物の衣は肉をコーティングし、水分を保つという重要な役割がある。衣内で密閉空間を作りその中で調理する。天ぷらも同様でいかに衣で隙間なく具を包み込んだまま揚げるかが大事だ。これがマヨネーズだと衣がほぼ溶けてなくなってしまう。水分を保てなくなった豚ロースはパサパサになる。実際干し肉みたいな食感だった。
他サイトが言うようにマヨネーズの味・匂いは全く気にならなくなるくらい低減されたが、それ以上にひたすら食感が悪い。衣はサクサクではなくザクザクと硬い。
これが美味いと思う感覚がわからない。仮にマヨネーズをたっぷりつけて上手に揚げても通常の小麦粉と溶き卵で揚げたとんかつ並に旨くなる気が1ミリもしない。
あとマヨネーズから溶け出した油や酢やら塩砂糖で揚げ油が汚れるのが非常にマイナスだ。揚げカスを取り除いたにもかかわらず、あとから揚げた物の色が汚くなった。
終わりに
日々の料理はいかに手抜きをしてそれっぽく作るかが重要だと思うが、揚げ物は一度油に入れたらなかなか修正がきかない料理。正攻法でつくったほうが良い。
卵に少量の油を混ぜるとカラッとあがり、衣も剥がれにくくなるという小技もあるが、マヨネーズほど油分が多いものをそのまま衣に使うというのはさすがに無理がある。
どうしてもマヨネーズを使わないと命が危ないという方はマヨネーズに小麦粉と水を混ぜたバッター液を作ると良いだろう。まあそれなら「マヨネーズじゃなくて卵で良いじゃん」って話になってきてしまうが…
この再現実験でわかったことは材料、やる気が足りなくて妥協するくらいなら作らないほうがマシだということだ。めんどくさくなったらトンテキにでもしてしまおう。
それに最近は松乃屋やかつやみたいな安いとんかつチェーン店がたくさんある一人暮らしならそこに行こう。小麦粉卵をつけるのさえ億劫だけど安く揚げ物を食べたいならこんなものを作るよりもスーパーで買ってきたほうがマシだ。自炊したときの材料と片付けのコストなどを勘案すると数十円の得にしかならないだろう。
そもそも、この「ずぼらとんかつ」なるものがそんなに良いなら YouTube に腐るほど動画が投稿されるはずだが、見つかったのは細切れ肉とササミを使った動画2つのみ。多くのコンテンツクリエイターは動画にするにも値しないレシピだと思っているのだろう。
追記:普通のとんかつを普通の方法で作ってみたので、よろしければこちらの記事もどうぞ。普通に美味しく作るコツなどを載せた。
おわり
Photo by Sara Cervera on Unsplash
Image by Ottó from Pixabay
コメント
同じことを思っている人がいるかなーと、検索してみたら
全く同じことを経験してる人がいて驚きでした!
お肉に対して、少ししか使ってないのに
これなら使わなければよかった。。。(´・ω・`)
と、後悔しきりです。
良い勉強になったと思って
今後はマヨは調味料として使おうと思います。
コメントありがとうございます。
この記事も書いて4年になり、毎日結構なアクセスがあるのですが
こうして共感していただいているコメントを見ると自分はそんなに間違っていないのだと安心します。
まぁ、中々ですね
うんとマヨネーズ使いそうでした な
んてこったー!ですね。
とりあえず
記事を参考にします。
なにを言ってんだよ
全然大丈夫だよ
ポロポロ落ちないよ
それはただの下手くそなだけ
マヨネーズも小麦粉なども
わたくしにとっては、なんら変わりません
なんなら小麦粉などの方がデブるので
使いませーん
動感です。
かんたんでいいー!と飛びつきやすいレシピですよね、作れば
わかる
衣もベローンと剥がれるしね
やっぱりそうですよね。焼くのも含めて数回試しましたがグッバイ衣しました。
それ以来面倒でもバッター液作ってます(-_-;)
マヨネーズの種類によって変わるってことないですか?
キューピーと味の素の一般的だと思われるマヨネーズでさえ加熱すると溶け方などだいぶ違いますし、キューピーの原材料は卵黄が2番目に来てますが、味の素やSSKの物だと原材料の2番目は醸造酒で3番目が卵になっておりマヨネーズの色も薄いのでおそらく全卵が使われてそうです。
お菓子を「ある程度」作れば、料理だって化学の基本からは逸脱しないって理解出来るんだろうけど、マヨネーズがタッパー液の代用になるって信じちゃうヒトも居るんですね。
上手に出来たってヒトも居ると思いますよ、
パン粉の細かさとか揚げ焼きとか、やり方によっては「衣の付いた肉」は出来るでしょうけど、それ、求めてる「タッパー液を使って水分や旨みの流出を抑えた揚げ物」とは違うモノだって事が解らないなら、ゴールが違うんだから解り合えなくて当然。
マヨネーズつかったら「衣付き油炒め」が出来るだけですよ。