初稿:2018/09/29
改稿:2018/10/05
Linux に今までの Code of Conflict に取って代わって、新たに CCCoC(Code of Conduct、行動規範) が設けられた。
The Linux Kernel – Contributor Covenant Code of Conduct
Code of Conduct
今後、Linuxコミュニティにコードを提供するプログラマー・メンテナーに対して行動規範を設け、同意して従うよう契約してもらうというもの。上記のリンクに詳しく乗っているが大まかに以下のようなものだ。
- 歳、身体的特徴、性別、人種、学歴、経験値などで差別しない。
- セクハラ発言やわいせつな画像などを使わない
- 荒らし行為や人を侮辱するようなコメントをしない。
- 嫌がらせや個人攻撃をしない。
- 本人の許可なしに個人情報などを投稿しない
- プロフェッショナルとして不適切な行為をしない。
要するに、人にやさしく、プロフェショナルであれ。ということだ。
メンテナーはこれらに反したコメントやコード、Wiki を削除する権限が与えられる。また他のコントリビューターに害があると判断した場合、一時的にその者を BAN したり除名したりすることができる。
今までの規範よりも一定の強制性を持った規範だ。
どこにでも人の感情に鈍感で迷惑を考えない人間はいる。やはりというべきか Linux コミュニティでも Linux のメーリングリストという全く関係ない場所で突然レイプについて統計がどうのとか話し出す変な人がいたりする。
Linux 自体、Linus 氏が趣味で始めたものだ。それが今や OSS で最大の規模を誇るプロジェクトになった。 Linux コミュニティはその成り立ちからか、たびたび自由で闊達すぎる議論がおきる。このことによって傷ついたり、嫌気がさしてコミュニティを離れる人もいた。ながらく Linux コミュニティは “toxic” であると言われているのはこのことが原因の一端である。
CCCoC の怪しい創設者
行動規範の導入は 2015年から フェミニストや LGBTQIA+ 団体から要請されていた。
今回この CCCoC が導入されたのは過激な活動家による働きかけで不当な干渉だと一部では批判されているが、私にはそれだけではないと感じる。 あくまで想像だが、Linus 本人と主要なメンテナーからもその必要性を説かれて導入されたものではないかと考える。事実、Linus 氏自身や何人もの優秀なデベロッパーが契約に署名している。
実は CCCoC の内容を批判している人は少ない。もっぱら批判の矛先はその創設者とどのように運用するかというところに向かっている。
Contributor Covenant Code of Conduct の創設者が怪しい人物だから反対するというのをよく聞くが、これはナンセンスだと思う(ツイッターの発言はかなり攻撃的だし、性格が悪そうというのは同意する)。リチャード・ストールマンの思想に賛同できなくとも GPL には賛同できるという人も大勢いるだろう。それに初期の CCCoC の内容はやりすぎだったが、今回新たに施行された CCCoC は改善されている。
規約を見ずに反対している人は一度ちゃんと Kernel.org に掲載されている CCCoC を読んで見るべきだと思う。
CCCoC の導入は珍しいことではない
Contributor Covenant Code of Conduct 自体多くのコミュニティで導入されているので珍しいことではない。既に 40,000 ものオープンソースプロジェクトに採用されていて、業界スタンダードになりつつある。 FreeBSD の行動規範に極めて似ている。
Contributor Covenant – A Code of Conduct for Open Source Projects
これを導入してプロジェクト進行の妨げになったというのは聞いたことがない。
はっきり言って CCCoC 公式HPに書かれている理念については賛同しかねるしツッコミどころがたくさんあるが契約内容については至極まっとうなものだ。また Linux コミュニティに合わないとなれば Ubuntu や KDE コミュニティの行動規範のように改定すれば良い。
KDE の行動規範は極めてシンプルだ。私はこちらのほうが Linux コミュニティには合っていると考える。
リーナス・トーバルズ氏の謝罪と休息
Linus 氏の謝罪と休養もこれを踏まえてのものではないか。 Linus 氏も長年、人の感情になかなか理解できないということを悩んでいると語った。このことがときどきほかのデベロッパーとの摩擦を引き起こしていた。メーリングリストでの過激な発言や公開の場で OSS に無理解で非協力的な NVIDIA に中指立てたことを知っている人も多いだろう。
プロジェクトを取り仕切るというのは多大なストレスを伴う。毎日何10ものコードをマージするかどうか精査しなければならないのだ。企業からゴミみたいなコードを送りつけられたらカチンとくるだろう。単に Linus 氏の性格からきている言動のキツさではないと思うが、今回の休暇で態度を改められるよう、努力したいと述べている。
ちなみに Linus 氏の暴言集を見たい人は英語版のウィキクォートを参照しよう。彼のアンサイクロペディアの記事がないのがちょっと信じられない。
プロフェッショナル
Linux コミュニティには多くのプロ(プログラム書いて飯を食っている人)がいるし、Linuxのファンではないけれど Redhat、SUSE、Google、IBM、Intel などから大勢の企業職員が仕事でドライバやパッチを提供している。そろそろモラルのレベルをひきあげる時期にきているのかもしれない。
私は少なくとも今は歓迎すべき流れだと思うし規制が過激になりすぎなければコミュニティにとってプラスに働くだろう。
身勝手な言論を展開したいのならば私のように金を払って勝手に個人ブログかなんか作ってそこで垂れ流せば良い。社会人ならばごくごく当たり前なことだ。
他者から罵倒される可能性に怯えながらコードを投稿するのは辛いことだ。
吉と出るか凶と出るか
Linux コミュニティでは、今回の決定はコミュニティの破壊をもたらすと言っている人の声が大きい。おそらく下記の記事が発端となっている。
コミュニティから追放されたプログラマーが報復として GPL v2 の穴を利用して、Linux から自分の書いたコードを抜き出せるというのだ。そして Linux のライセンシングは GPL 2 で行われている。
リチャード・ストールマンやエリック・レイモンドはこの問題について、”牙を持っている”と表現。訴訟に持ち込まれたらコミュニティが敗訴する可能性があるというのだ。
私は Linux カーネルからコードが抜き出されて歯抜け状態になると騒ぎ立てるのはちょっと過剰反応ではないかと思う。 Linux のコントリビューターのほとんどは大企業のプログラマーだ。こういう人々はコンプライアンスに敏感であり、うっかり差別やヘイトを撒き散らすということはなかなかしない。というかそういう攻撃的な発言をすること自体に抵抗感がある人が多い。企業側も就業中に書いたコードを勝手に抜き出すということを許さないだろう。
CCCoC を導入する際、内部で一体なにが起こったのかわからないが、今後の Linux の行方がどうなるのかは、Linus 氏が復帰するか否かが一つの指標になるのではないかと思う。 Linus 氏が半ば強要されて署名させられたのではないかと噂する人もいる。
しかし、下の記事を見てほしい。私には誰に強制されたわけではなく、ライナス氏はこの問題を自分のもとと捉え、かなり本気で取り組んでいるのを感じた。インタビュー中の発言も非常に冷静でバランスの取れたもので安心感を覚えた。彼が今後も陣頭指揮をとってくれるならば憂いはないだろう。
ZDNet Japan – トーバルズ氏はLinuxコミュニティの「行動規範」に関する議論をどうとらえているのか
先程も述べたが CCCoC の導入によって破壊されたプロジェクトというのは聞いたことがないが、注意深く見守っていく必要がある。どれだけ活動家を締め出せるかが成功の鍵となるだろう。
ー 終 ー
Photo by Brian McMahon on Unsplash
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